声には出さない







 side 天化

俺っちが俺っちじゃなくなる日ってのが来るとしたら、それはいつか、ずっと遥か先の"仙人になる日"なんだと思ってる。その考えは大人になった今でも朧気で、けどきっと間違いじゃねぇさ。って、そう思ってんのに──今、このひとの背中を前にしてぐつぐつ煮え立つ俺っちは、この前までの俺っちじゃねぇ。何一つ身体は変わっちゃねぇのに……いや、違うさ。身体だって変わってる。
銅鑼の音みてぇな低い音が腹の中で渦巻いて、親父に連れられて初めて馬に乗ったときみたいな疾走感もごちゃ混ぜで、息が上手く吸えなくなって、煙草に触る唇が厚ぼったい。もっと驚くことに、たぶんこれが嫌いじゃない俺っちがいる。

一体どうしてこうなったのか。考えてみる前に指と指が触れて、明瞭だった視界に地響きがした気がした。

遥か彼方の、最果てから呼ばれてる。風と混ざって、耳の奥に流れ込むあったけぇ衝動。
誰が?誰をさ?
これはなにさ?
胸の真ん中を軽い拳に叩かれて、狙いを定めた真相は近付いてんだ。逃がさねぇ──なのに、この妙な気持ちの正体を暴いていいんか、それがわかんねぇ。

けどきっと、俺っちがソイツの名前を呼んだら──。

日だまりみたいな胸の音と一緒に、正体がわかる気がした。あーたとなら知ってもいいって思ったさ。……ダメかい?王サマよ。


end?



Twitterのハッシュタグにて、素敵だったので拝借。
『#愛恋好心という文字を使わずに恋をしている事を表現してみる』

こう言う小さな言葉の連想が大好きです。
2012/12/04
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