キスの場所で22のお題 15、掌(*)




王サマとの戯れは、いつだって甘ったるい泥水みたいなモンで満たされて、俺っちの息は行き場を失うばっかりだった。ぐるぐる回る白い天井は、季節が二つ廻る頃には白い帆布の天幕に変わって、虫の声に秋の風、灯籠の橙がチラチラ揺れる肌寒い夜。草いきれに胸が満たされて──相変わらずなのは泥沼みてぇに底無しの、
「っ、ぅサマッ……」
このひとの掌の甘ったるさ。俺っちの髪を撫で梳いて、バンダナの結び目を緩めたら口で解いて。このひとのやることはいつだって甘ったるくてまどろっこしくて、その妙な居心地の中で、俺っちの思考は潰れてっちまう。ああ、くそ!ちくしょー…またさ!
思わず顔を覆って前髪をかき混ぜた。だってそうっしょ、居たたまれねぇさ、やりきれねぇ。女みたいな声で、女みたいな格好で。きっと今の俺っちは、剣士だなんて誰にも信じちゃ貰えねぇ──そんな程、頭の中身がぐちゃぐちゃに寄り集まっちまってる。

「っ、や!い、ぁ…」

掌がすべる。
俺っちの身体の全部。
俺っちが触れない場所まで全部。

王サマの掌が知らないトコなんてーのは俺っちにゃ残されてなくて、
「アッ、んっ、ぅ」
抑えつけた声が跳ねる度に、掌の甘さは増してくんだからタチが悪い。ん?なんて、子供に問いかけるみたいな善人顔の遊び人が、顔を覆う俺っちの指の隙間から覗く目を捉えてる──ああもう、ちくしょう!!

なんで跳ねちまうさ、俺っちの心臓。
なんで指が言うこときかねぇさ!
王サマの頭からずり落ちたターバンの裾を引っ付かんだまま、無意味に何度も指先が迷って震える。
麻薬みたいに甘い熱い掌が、身体中を撫で擦って、終には頬が挟まれた。

「てーんーか」

見かけよりずっとデカい掌。認めたくない涙の痕を両手で挟むから、俺っちの顔がくちゃくちゃに潰れてんだ、きっと。
「──……うサマ、王サマ」
ん?なんて、あの顔がまた問いかけるから。どうしようもなく甘ったるい掌が恨めしくて、
「……っも、う、欲しいさっ……!」
頬から引き剥がしたそれに噛み付くみたいに口付けたのは、きっと最後のプライドだった。

強請る顔は隠したまま

end.


2012/10/25
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