キスの場所で22のお題 17、腹




「やーらけぇ……」
そう呟いてはっと我に返る夜半。月光の射し込む寝台に張り付けられたソイツが、心底嫌そうな眼光を注いでやがる。後頭部にちりちり感じるそれを煙に巻いて、指先で柔らかな臍を辿った。色鮮やかに口付けの華を咲かすには、若干黒く焦げた肌だ。熔けちまいそうに柔らかい女の子の身体にゃー、ぜってぇない。飛び交う小石や木っ端、きっと外敵の怒気なんかで傷を付けられたんだろう皮膚は、薄く青い血管を抱いていた。
「天化……」
鼻先で見事に割れた道をなぞると、奴は微かに身を捩る。そうだ、これだって女の身体にゃありゃしねぇ。あの何処までも柔らかで真っ白い肌に口付けて頬を擦り寄せて……俺はいつだって、そうやって一夜の安寧に身を溺れさせてたってーのに。

──おかしな話だ。
なにも孕みも生みもしないコイツの硬い腹も、中に幾重にも重なって走る血管も、小さい音をたてて蠢く腸も、なににも変えがたい安寧を耳に運ぶ。
六つに割られた割地を順に辿りながら、奏でられる脈動に耳を澄ませば、奴はやっぱり焦れったそうに鼻にくぐもった声をあげて、抵抗なんて名ばかりの甘ったるい膝頭が俺の腹を掠めて止まる。途端に込み上げてくる甘美な衝動と安らかな気持ちが混ざり合って、右上から順に口付けた。
ひとつふたつ、脈拍に合わせて痕を残しながら。塩辛い汗の味とあたたかな天化の肌の味とが混ざりながら、愛しい愛しいなんて声にしちまったのかも知れない。六つ全てに口付け終える頃には、天化の太い指が俺の濡れた髪の中を這い回って、きゅっと地肌に爪が立つ。──たまんねぇの、そーゆー独占欲。

ますます可愛い気を増したソイツにもう一度音もなく口付けて回りながら、俺はそっと目を閉じた。

柔らかで官能に満ちた音がする。
天化の呼吸に合わせて。口付ける俺に合わせて。きっと未来まで忘れ得ない、優しさと命に溢れた音が。

絶やしたくねぇ、なんて思う俺がおかしいのか、焦れた唇の端で笑って両腕を広げる天化の胸に飛び込んで、朝が注ぐまで重なり合って抱き合っていた。

回帰の音は永劫に


end.

天化の腹と言えば、彼の傷なのかとも思いつつ。傷なし、傷ありはご想像にお任せします。
2012/10/20
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