キスの場所で22のお題 7、唇




まだ固く閉ざされた、柔らかな矛盾。そっと触れ合う為に縮めた間合いは、爪先立った天化との一寸の二酸化炭素に阻まれ、発は不満気に眉を寄せた。
「──ふ、」
しかしどうだろう。愛しい苦しさに零れ落ちた音がひとつ。それも同じ二酸化炭素に違いはないのに。愛おしさすら感じるそれを飲み込みながら、直立した背ごと腕の中に閉じ込めて、外套が風に吹かれて舞い上がる。爪先立ちのブーツが一寸、間合いを詰めた。

触れている唇と唇の僅かな熱の攻防に、混じり合う吐息が掻き立てる。溢れて止まない想いの丈は、背を這い上がり髪を梳く指先を伝い溢れ、バンダナに護られた耳許に終着する頃だろうか。とくりと脈を送る心臓が、とうとう重なったまま時を刻んでいた。


十五を数える頃には、ほのかに色付く唇は開かれる。

"煙草がないからさ"

いつも必ず十五がかかる。

"別に王サマなんか欲しかねぇ"

そうだ。天化から開かれたことはまだない。彼の言い訳に紛れた寂しさに笑い合えば、悪態の途中で流れるように舌が縺れた。小川の漣のように、湖畔の輝きのように、まだ見ぬ海のように。溢れて止まないあたたかな感情は、程なくして頭と首を乱暴に引き寄せた天化の指も知っている。初めは発の教えたことだった。
互いに互いが溺れるように、溢れるように。秋風の走り抜ける回廊に、火の着いた唇がふたつ。
「は、」
下唇を軽く噛むとうっとりと漏れる音。絡みながら紡ぐ歌は酷く心地好い。爪先を焦らせながら腰を引き寄せ、髪を撫でれば応えるように外套を引く。崩れて落ちたターバンが首元に絡まって、角度を変えた唇は熱さを増した。
「──……」
「天化」
「つ、はつ…」
「天化…」
唱える呪詛を唇に閉じ込めて、熱い唇が長い長い影を伸ばす。心臓は早鐘を打ち、口先で愛を詠い、蹴り上げた爪先が可愛らしくぶつかって、舌が縺れて息を奪う。
「……離せっての。殺す気か、アホ」
「……離さねぇのはどっちさ」
悪態の途中でどちらともなく笑い合い、
「ばーか」
夕闇の迫る橙の腕の中、触れ合う互いがあたたかかな日だった。

窒息するならお前共々、


2012/10/08
[ 4/10 ]
  



短編目次へ


[TOP 地図 連載 短編 off 日記 ]
- 発 天 途 上 郷 -



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -