「ちょっと話そうぜ」と呼び出された。
あの日と同じ非常階段の前。
始終王サマの背中が震えてて、それが寒いからか怒ってるからかわからない。なのに指は繋いでて、ヘンな感じがした。
バカな俺っちにもわかるけど、これからするのは「別れ話」なんだろう。そう思ったら、思わず王サマの手を関節の反対側に引っ張っちまって。
「ぐぎゃああー!」ってなバカでっかい悲鳴で転がってく王サマのバカでっかい図体が、紅葉の中で真っ赤だった。
一緒に転んだ金木犀の絨毯で、重なってまた転がって。
たったの一瞬、1秒だけの時間が、俺っちを金縛りにした。
俺っちはついにファーストキスの関門越えたみてぇさ。
……王サマは、そのまま流血して歯医者行った。ついてった待合室で待ってる間、恥ずかしくて走り出したくなったけど、結構幸せみてぇ。へへ。そういやぁ別れ話はどっかいっちまったべ。
[ 7/13 ] ≪短編目次へ