見ているだけ 5題




其ノ伍その後


俺がどれだけ欲しても手に入らねぇモン。それは金。本命の女。安定した暮らし。フツーの暮らし。どうせダメダメ軟弱息子の身の丈に合ったそこそこ楽しいオアソビってのは、中途半端なモンだった。

手を伸ばしても、旅立つ親父も兄ちゃんさえも、誰かれ俺に押し付けながら、俺の言葉は聞いちゃくんねぇ。

そーゆーこと。そーいうことかよ。

ふと思い出したんだ。
他にも逝っちまいそうな早とちりの特攻得意な奴がいて、きっとソイツは、楊ゼンじゃなくて俺を殴るだろう。そーゆー関係だったから。きっと三年も五年もだ。だからきっと、なぁ────。



ずっとずっと、欲しいモノっちゅーんは手に入れてぇ俺っちだから、ガキの頃から不自由はなかった。
きれいな虫の脱け殻とかさ、親父のお下がりの剣とか、かあちゃんの美味い七草粥とか八宝茶とか、みんなで囲む杏仁豆腐とか。

けどきっと、一人で食べると美味くねぇ。
白い八重歯にだらしなくついたクリームに笑わなきゃ、月餅はパサパサ口に残るだけ。あーあ、おしっ。
しょーがねぇから、あーたが好きなおやつ案内してもらうかな。たぶん、突き飛ばしたら、今度こそ。

指に触れる、踏み出せる、情けねぇ勇気が出るからさ──。

end.

初めて挑戦した御題。散文詩としてお楽しみくだされば。
2012/04/28

御題拝借:感謝至極!
雲の空耳と独り言+αさま
(現在閉鎖。お疲れさまでした。)


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