神経撹乱 





やっと下りてきた人間界。魔家四将んときにやられた傷も、完治じゃねぇけど動けるさ。

って、そんなのんきなこと言ってらんねぇ!久しぶりに合流したスースやオヤジたちの頭に、悩みって程じゃない。…けど、立ちはだかる壁がある。
蘇護のとっつぁんに烏鴉兵…(はどうでもいいけど)
呂岳、強くなった宝貝人間、殷の王子サマと王子サマ。そのシ水関での戦にも、道士の俺っちには出番なし。
オマケに、いつの間に合流したんさ?モグラに金鰲の蝉玉。強いヤツじゃねぇけど…いろんなこと一気にありすぎさ!
その間、俺っちなにしてた…?
この壁はどうやって越えてく?今までも沢山越えて来た。だから早く、早く…
…強くなりてぇさ!負けてらんねぇ!もっともっと修行して闘って、ゾクゾクするような闘いが
「おーい!」
目の前にいるひとを守れるだけの力、
「おーい!」
そしたら今度こそオヤジを越えられる!
「おーい!」
「俺っちもっと強くなるさー!」
「だぁあ無視してんじゃねぇ!」
振り上げた拳の横で派手によろけた人影は、
「…王サマ?いつからいたさ?」
風が走り抜けた。もう日も暮れちまう頃。宿営地の兵も眠る時間。
「さっきから呼んでんだろ!」
「悪かったさ。で、王サマ…」
続き言う前に、
「デートしよう!」
「は?なに言ってるさ王サマ…」
あーたあほさ!?
言い出したらきかない人なのは、今までもいろいろあったから知ってっけど…
「デートって女の人とするもんさ。」
「そーゆー意味じゃねぇよ」
「じゃあなんさ?そろそろ寝てくんないと護衛の俺っちが困るさ」
つれねぇなぁ、なんて呟いた王サマの顔は、初めて見る顔だった。切ないとか、苦しいとか…そんな。
暮れる月が妙に不気味で、
なんか、悩んでるんかい?
聞いてみようかって口が迷う。
「豊邑に行きてえ!豊邑で遊びてえ!」
「はぁ!?なに言ってるさ!あーたマジであほさ!」
「会いたいんだよ、仲間に!町の仲間に!」
「…気持ちはわかっけどダメさ!もうシ水関も過ぎ」
「だーからだよ!」
みんな寝る時間に声デカいさ!…って、俺っち王サマのこと言えねえ。
ガツンといきなり抱かれた俺っちの肩。王サマの白いマントにぐるぐる巻きにされて、
「な、もうこっから先は逃げらんねぇのはわかってるよ!だからさ、その前に"王サマ"じゃない自分に覚悟決めてぇわけ!」
まくし立てる王サマに、ちょっと胸ぐらが揺れたさ。このひとが背負ってるモンは、きっと重い。
「にしても豊邑までは」
「武吉っちゃんに頼んどいたぜ!」
「…!」
思わず見合わせた目王サマの目。豊邑の自宅から走って通勤の武吉っちゃん。
これならいけっかも知んない…!
「な!な?太公望にはバレたらマズイけどよ、護衛のお前がいるなら平気だろ!?」
なぁ!なぁ!
その勢いで揺さぶられた俺っちも、だんだん胸の奥がうずうずムズムズしてるさ!さっきまでの不気味な月の青白い光が、気持ちいいわくわくに変わる。
子供の悪戯が楽しいって、この感じかい?スースがずるして笑ってんの、この感じかい?
「じゃあ、……明日の朝までに絶対帰る、約束さ!王サマ!」
「おう!」
ガツン!ぶつかる拳に初めてのわくわく。笑ってる王サマの顔がいつもよりずっと子供に見えて、なんか知んない、笑えるさ!

きっと子供の悪戯よりスースのずるより、王サマと俺っちの旅のが楽しいね!


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