神経撹乱 





「なぁ天化」
「ん?」
「楽しんだかよ?」
「…楽しかったさ」
初めてさ。あんな場所で朝までどんちゃん騒ぎなんて。流石に酒は飲んでないけどさ。
「初めてだろ?」
「…心読んだんかい?」
「ばーぁか!見てりゃわかるよ!」
豪快に笑う発ちゃんは、今まで知らなかった発ちゃんの顔。

「天化に…その、なんの礼もしてなかったしよ……それに、こないだ聞いたんだ。」

――この戦争が終わったら、天化たちも空に引っ越しちまうんだろ?

――その前にお前と遊んでみたかったしな!


そんなことを簡単に楽しそうに言ってる発ちゃんに、確かに沸き立つ俺っちがいた。
あほで女好きでだらしないサボり魔だけど、優しいさ、発ちゃん。
器用じゃないけどでかい器の王サマ。
一緒にいたら、このひとならなんでも叶えちまいそうな笑顔。

…そういや、ちょっと前まで立ちはだってた壁は、俺っちの後ろに過ぎてった。
熱くて新しい匂いの風を連れて、発ちゃんと並んで歩く。
豊邑の道。こっから創るさ。新しい世界も、強い力も。

「なぁ天化!」
「なんさ?発ちゃん」
「その…この前…ありがとな」
発ちゃんが頭をかく。
「お安い御用さ!」
俺っちが笑う。

「俺、俺なりに守るぜ。民もお前も。」

風が、吹く。
うるさいさ、心臓。
初めて、さ。
俺っちを守るなんて言葉も、沸き立って浮き足立ってる俺っちも。
「…一番大事な発ちゃんが自分で自分守ってくんなきゃ困るさ」
「大丈夫だって!俺のことは天化が守ってくれんだろ?」
「甘えちゃダメさ!」
「えぇ〜!?どこがだよ!」
豪快に笑う顔、八重歯。合わせた拳。
走り抜ける風に、うっさいさ心臓!
わくわくは好きだけど、ずっとこれじゃちょい疲れる。
……慣れない舞いと歌に、俺っちすっかり参ったみたいさ。

待ち合わせた武吉っちゃんに乗っかって、今度はどうしても譲らなかった発ちゃんが俺っちの背中。
白布とマントは元通り。

ツンツン。
「お…つつくの止めるさ!」
「なんで?」
「く、くすぐったいさ!」
発ちゃんの声が、あの店の音楽みたいに高揚させてばっかいる。
「天化、髪切らねぇの?首熱くないか?」
「発ちゃんに言われたくねーさ!っだー!だからくすぐるの止めっ…」

「今日も仲良しですねっ!」

「「うっ…」」

武吉っちゃん…いきなりそれ言うの反則さ…

「ま、発ちゃんは悪友さね」
「んだとぅ!?一晩デートした仲だろ!?」
「ばっ…その冗談つまんねぇさ!発ちゃ、」

「あれ?"発ちゃん"って誰でしたっけ?」

猛スピードで走る武吉っちゃんの言葉に、発ちゃんと見合わせて相談する目。
うん。こっからは、ちゃんと王サマって呼ぶさ。

また一緒に笑い出しそうになって、口を一文字に閉じる。
合わさった目がいつもより力強く青く見えるのは、きっと発ちゃんが酒盛りしたからさ。
俺っちの心臓の動きが変なのは、舞いなんて似合わない慣れないことしたからさ。

「天化、…まじないだ。」
耳元で、武吉っちゃんにも聞こえない程小さい小さい声がして、
「これが俺と天化の約束だからな!」
首の後ろの付け根、くすぐったく吸い上げあれる。
痛くてくすぐったくて、なんか暴れ出しそうな朝焼けの風。ぞくぞく走り抜ける。

「って!なにしてるさあーた!!」
「だから!まじないだっつの!」

これじゃ切ろうと思った髪が切れねぇ…!馬鹿!

もう、…よくわかんねぇさ。

発ちゃんの声は、神経撹乱系宝貝に似てる。その手のものに強い自負がある俺っちが…わかんなくなるさ。
なにがわかんなくなるか…まだわかんねぇ。でも、金縛りになる。
勝手な王サマの神経撹乱。

俺っち、やっぱまだまだ修行不足!帰ったら朝歌入りまで修行するさ!うっし!天祥に稽古つける間は発ちゃんにも稽古つけるさー!

ただ、もうちょい。
今だけ変な神経撹乱に酔ってみるのも、悪くないかも知んない。

……なぁんて、そーゆーの似合わないさ俺っち!



「口実ねぇと誘えないなんて、俺らしくねぇ…」
「ん?なんか言ったさ?王サマ」
「だぁー!なんでもねぇよ!」

end.
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今度は天化サイドですー。
天化はその辺にすごく鈍い、けど、しっかり好感はあって。常に上から目線な護衛…
書きたかったのは「灰皿どこだー?」でした(笑)
2010/10/30

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