神経撹乱 





「じゃあ、しっかりつかまってくださーい!飛ばしますっっ!」
武吉っちゃんの背中に王サマ、その上に俺っち。ひゅー!さっすが早ぇえ〜!
ビュンビュン飛ばす風の音に、続く暗い道。
「おっ…重いなお前!チビのくせに…」
「チビじゃないさ!それに王サマより筋肉あるさからさ」
「じゃあ俺が一番上でいいじゃねぇか!」
「それじゃあーた振り落とされちまうさ!」
「つか荷車に乗りゃよかった…」
「車輪が武吉っちゃんの怪足についてけねぇさ。壊れたら王サマ吹っ飛んでいーんかい?」
「てめっ…かなりグサグサ言うな…」
「王様と天化さん、仲良しでいいですねっ!」
風の空耳かと思ったけど、ん?はぁ!?

「「仲良し!?」」

げっ、ハモったさ…

「なに言ってんだ武吉っちゃん!」
「なに言うさ武吉っちゃん!」

「ほら!ぼくいつも一人で家に帰るから、にぎやかで嬉しいです!楽しいなぁーっ!」

そう言われっと言葉が出ない。もしかして、やっぱ武吉っちゃんが最強さ…?思わず振り返った王サマの目。きっと俺っちと同じこと思ってる!
「ははははははは!」
「笑っちゃ悪いさっ、はは」
「ははっ…お前もだろ!」
「王様?天化さん?」
もう…どーでもいいさ!
今、とにかく感じたことないわくわくに、腹の底が沸き立ってる。これ、マジで文句ナシに楽しいさ!

「では、また3時間後の朝焼けに!」
笑顔で一礼して家に走る武吉っちゃんを見送って、やっと地上に足がついた。ありがとな!また世話んなるさ。

「王サマ、これから」
「あ、ソレ!」
振り返った王サマの頭から、王の証の白布が滑り落ちる。
「なんさ?」
「これから、俺は町の"発ちゃん"!」
「なるほど、そーゆーことさ…」
脱ぎ捨てたマントに、赤い服。
「だから!お前もな、"天化"!」
「…おう!発ちゃん!」
もっかいぶつかった拳に嘘はない。俺っちは一張羅だけど、ま、いいさ!

「で、お…発ちゃん、何処行くさ?」
「おうおう!ついて来い天化〜!」
でかい声に上がる口元。

夜を駆ける。
二人分の足音が、豊邑に吸い込まれて刻まれる。
夜に溶ける。
人間の早さで走るのも、そーいや随分久しぶりさ。

「発ちゃん!久しぶり!」
「お前らぁ!元気にしてたか!?」
「ったり前だろォ!」

王サマ――発ちゃんのくぐった店の中は、聞いたことない音楽で溢れてる。徴兵で殷に向かうひともいるけど、こっちで農業任されてるひともいるさ。そこに王サマ。集まる仲間…やっぱりニクめないひとさね。
あっちこっち、何処もかしこも満開の笑顔ばっか。

「お、天化!」
いきなり引かれた右手。
「ああ!あーた酒飲んじゃダメ…」
「紹介するぜ!新しい仲間!天化ってんだ!」
左に杯。右には俺っち。
「おお!よろしく天化!」
「舞いはなにが得意?」
「やだぁ!天化くんいい男じゃなーい!」
「灰皿どこだぁー?」
「酒は好きかい!?」
駆け寄ってくる大勢と灯りに、一瞬目が眩む。
「ほら!天化ぁ、ノリ悪ぃぞ!踊れっ!」
大きく"発ちゃん"に背中叩かれてつんのめって、沢山の仲間に埋もれて踊る。
知らない舞い。聞いたことない音楽。店の灯り。
でも、嫌いじゃないさ。
たった今まで知らなかった仲間。笑ってる発ちゃんは、やっぱりニクめないひと。
楽しみ出した俺っちの横でニヤリ。
「発ちゃんも踊るさぁ!」
仕返しに振り上げた俺っちの掌と、合わさる発ちゃんの掌。パチン!軽快な音がした。
「お?なかなかいいじゃん、天化」
「発ちゃん、流石遊び慣れてるさ」
「うるせっ」
渦巻く笑い声。
くぅー!魂が踊るってこーゆーことさ?
ぞくぞく、止まんねぇ!
だから拳もいいけど、舞いと歌なら掌がいいって思ったさ。なんとなく。
重ねたひとの手は、みんな熱い。
そろそろ眠りにつくお月さん、ありがとさ!お疲れさん!

「やーっぱ楽しい時間はあっという間だなー」
もうすぐ朝焼けの豊邑。店を出た発ちゃんの顔は、何処かスッキリ遠くを見てる。
その顔も、今初めて見る。

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