ふと聞こえる、笑い声。
「親父を越えるさ!」
なーんて自信満々笑ってるお前は、俺より向いてんじゃねーか?"王サマ"に。
鼻の先かすめた切り傷も、きっと曰く名誉の勲章なんだろ。
馬鹿正直で闘いたがり。んなこと出来んだったら遊び行った方が性に合う俺だ。
なんかその、…どーも苦手なんだよなぁ。毎日毎日修行だなんだって、悪いとは言わねぇ…けど、俺にゃ絶対真似出来ねぇよ。
結局俺はそんな器じゃないってことだ、わかったろ。
そんな卑屈な俺の毎日が過ぎるんだろうと、思ってる昼下がり。
「王サマを守るのは俺っちの役目さ!!」
目の前に立ちはだかる四人と一人。
え、おい、これ誰?
ああ、いやお前じゃなくて!お前は知ってるよ、黄家の次男。
「てっ…敵の仙人なのかこいつら?」
「逃げるさ王サマ!」
だぁぁぁぁ!なんだ!?
なにが起こってんのか理解する暇さえくれやしない!いっつもそうだお前らは!
うわああぁ殺される!
目の前にあるのは死の恐怖。
怖い怖い怖い!殺される!
勘弁してくれ!背中向けて逃げんのだってこえーよ!さっさとそいつらやってくれ!俺の脚じゃ逃げ切れねーっつの!太公望…早く…!
息切らして走る後ろで、お前の呻く声がした。
――嘘だろ。
仙人だろ?守ってくれんだろ?俺、逃げたじゃねぇかよ!
今太公望呼んで来るから!
他の敵の仙人にひっつかまれた頭の痛さより、両腕千切れそうなお前を見るのが怖かった。
――嘘だ、嘘だろ!なにやってんだよ!
怖い。
こえぇよ!目の前でひとが死ぬ、俺が死ぬ?いや、こいつは道士だろ?死なないよな?
なぁ、こえぇよ!
瓦の上で横たわってる黄家の次男。
流れる血は、腕と脚の深い傷。
顔の傷だってきっと…痛かったんだろうな。
今の方が痛ぇだろうことは俺から見ても明らかだけど。
喰われてく民、ぶち壊される城壁。想い出の地。
湧いてくる闘志と怒りは、俺の中に流れてるおやじの血なんだろうか。
わからねぇ。
ちくしょう!
俺はまだなにもしてねぇ!なにも残してねぇ!
死ぬな!馬鹿!黄天化!天化!
――そのとき初めて知った。
お前、……飛べねぇんじゃん。
俺よりゃ強いだろうけど、怪力じゃねぇじゃん。
武吉っちゃんみてぇな怪足じゃねぇじゃねーか!
無尽蔵じゃないんだろ?
おいおいおいおい!まさかだけど変化とか出来ねぇよな!?
――嘘だろおい!
俺もけっこうムチャして生きて来た性分だけどよ、お前…どんだけのムチャしてんだ!んっとに範疇超えたばかやろう!
倒れた妖怪仙人の横、風に吹かれるボロボロの躯で嬉しそうに笑うお前は、
とんでもなく馬鹿で負けず嫌い。
とんでもなく、男前……だった。
なぁ、"王"になりたい訳じゃねぇ。ならないとも言ってねぇ。
血筋だって言われりゃそれで片付くんだろうけどよ。
「戦争なんざ元々ろくでもねぇもんだ!」
そう言わせた俺の決意の背中を押した"理由"ってのが、"お前"ってのは、いつか話すときがあったら楽しいかも知んねぇな。
って、聞いてねぇか。今頃治療中だもんな。なんだ、つまんねーの!
ま、ゆっくり休んで来いよ!
それまで俺は倒れねぇ!
ちょっとは俺にもかっこいいことさせてくれ!
――これが人間の――俺の、決意と闘い方だ。
end.
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発ちゃんからの印象変化。
もっと楽しく書こうかなーと思いつつ、やっぱり本編はすんなり好意を抱かない方が良いかなーなんて。
なにを隠そう、当時の私から天化への印象変化です(笑)
2010/10/30
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