反らせた筈の顔は、不思議と次を求めて発を射抜く。見上げた顔は確かに出逢った頃から幾分歳を重ねていた。
それでも構わない。何年経っても幾度離れても、二人でこの世を飛び出した。
そうさせるだけの、気持ちがそこで息づいている。元々はみ出しモンのお互いだ。その位思いっきり突き抜けた方がいっそ心地好い。そんな所が君らしい。
風の音に、発の声。
「天化」
眉をひそめて苦し気に呟くその表情を、遥か前からきっと何処かで期待していたのだろう。
「天化が欲しい」
離れた唇に沸き上がった一抹の寂しさも、
「発ちゃんが欲しいさ」
唱える呪文に吹き飛んだ。
熱い。――躯が熱い。灼熱に焼けて熔けそうで苦しい。
「ソレ言い返す辺りが天化だよな」
込み上げる苦笑。腹を撫でながら発が言う。
「そう言ったさ!」
「え?…ああ、したいようにって?」
からかうとすぐ突っ掛かる負けず嫌い。二の句を継ぐ前に口を塞いで腹を撫でる。口の中で短い声が跳ね回った。焦点の合わぬ目。近付きすぎれば滑稽な顔で、込み上げる笑いが止まらなかった。何処までも何処までも子供のような軽口と口付けで、追いかけっこが止まらない。
ふと、気付く。
「傷……治ったんだな」
右手の指でなぞる肌は、未だに信じられない程熱く、ただ穏やかな筋肉の隆起だけ。包帯も滲む鮮血も、振り返れば遠い昔。
「じゃなきゃバラバラな人もいるからさ、困るさ?」
「そーゆー意味じゃねぇ」
「……発ちゃんの傷も、治ったさ」
伸びた手が、ゆっくり発のみぞおちを撫でる。
「…おう」
ざわりと蠢く感覚は、寂しさに懐かしさと歓喜と快楽と。
愛おし気に確かめるように、気が済むまで天化の指の往復を許した。したいようにしろと言ったのは自分だ。
「良かったさ…発ちゃん」
「…お前もな」
子供のように純粋に動く唇を、また少し吸った。溢れ出す愛しさに興奮。反らす背中に押し出された腹筋が、目にちらついて離れない。
「……ん、ん」
躯中、口付けが待ってくれない。くすぐったいと言い出さなかったのは天化なりの気遣いか、それとも違う感覚を感じているからか。何処までも子供で、何処までも真っ直ぐで。
剥ぎ取った服に文句を言われた。
「ズルいさ」
下から睨む真っ赤な顔に終始ペースを掴めない。持って行かれる。
「んじゃー天化ちゃんの好きにして」
何処までも読めない。そんな君を求めて止まない。
言い放ったら放ったでムキになる天化の指が、掴んだ服を引きずり降ろす。思わず途中で加担した。
また赤くなって求める唇は照れ隠し。
吹かれた風に、鳥肌立つ熱い躯。
君が熱い。君が欲しい。
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