モヤモヤ、充足(*)(1/2)




思い起こせば長くはならない。まだたった7日前。
「もう無理させねぇから。毎日とかしねぇから、な」
確かにそう言った唇は、頑なにそれを守るらしい。ちょっとは見直した、とでも思えれば可愛いんかね?んな訳ないさ、王サマって馬鹿だしせっかちだし。そんな強がりの天の邪鬼が、広いベッドで脚を縮めて時計を見ていた午前4時。部活終わりだ、眠いんだ。瞼は降りてきている筈だ。――眠れねぇさ!
隣の寝息に舌打ちひとつ。

――思い起こせば5日前。
「なぁなぁあのさ…アレ、ゴムつけてりゃいいんだよな?」
つつく指とへらへら笑う唇を平手で牽制。
「調子乗ってないで部活行くさ!」
思い起こせば4日前。
「天化ごめーん、触りっこってノーカンだよな?あっちも触るだけ」
「しないっつったっしょ!」
「ケチ」
「うるさいさ!」
へらへら笑う顔を見られなかった。呆れと舌の根乾かぬなんとやらに、それ以上の苛立ちと照れが邪魔をして。
「先っぽだけ…」
「ダメに決まってるさ!!毎回部活で腰立たないのは誰の所為さ!」
だって怒ると思ったんだ。膝を抱えて息を吐く。どうせすぐにだだっ子みたいに地団駄踏んで、落ち着きない手はふざけながら平らな胸をひとしきり撫でて、もうやめらんねぇから、なんて少し色っぽくて大人の声で。突っぱねれば突っぱねただけ追い掛けてくると思っていたのは、負けず嫌いの意地と妥協と甘えだった。きっと。

「キスは……キスはしてもいいんだよな?」

そう言った2時間前の真っ直ぐな目に、天化の脚は動かなかった。
「仕方ないさ王サマは」
すぐに暴れるだろう乱暴な舌も荒い息も、二人のルールの大好きな幼い舌の擦り合わせもなにもない。答えにならない言葉にも安堵の笑みを浮かべた発は、触れるだけのキスをした。甘くて柔らかくて優しくて、
「……安心した」
呟いた声があまりに苦し気で切なくて、天の邪鬼はだんまりを決めた。
「ちょっとだけだからよ、充電さして」
背中から抱き締める声がした。
「ダメって言ったばっかさ…」
これが最後の意地のつもりのベッドの上で、熱い腕が天化を捉えて離さない。
「なにもしねぇから!」
酷く真面目な声に涙の気配が忍び寄る。
「……絶対」
身体にあたるアンナトコはいつものそんな様子もないから。本当にただ抱き締めたままの安心仕切った寝息を耳に、動けない負けず嫌いは一晩眠れもしなかった。

だって。
突破する境界線を予想した。落ち着きない軽口と唇と吐息が注いでそれを塞いで、ほんの少しの大人の味の舌を吸ったらあとは相手の得意分野だ。悔しいぐらい胸が波打つ初めて会ったときのあの情景に、違う姿を、自分で上書きすると思ったんだ。抱かれた背中はあたたかくて、誰よりも発の匂いとあの香水の甘い香り。天化の肩口を通って胸の前で結ばれた腕と指が、タンクトップを離さなかった。
シーツが波打つベッドの上で、膝の稼働範囲を確かめた。下になった右膝を胸に抱き寄せて、ぎゅ。固く固く目を閉じた。口を結ぶ。耳元の寝息に背筋を伝った夏の汗が、甘く優しく腰をくすぐる。
目を閉じろ、五感を閉じろ、感じるな。言いたいことは山ほどあって、それはもう全部実行したつもり。なら胸にわだかまるこれはなんだろう?苦しくてあたたかくて、少しだけ乱暴な、胸の上下とモヤモヤの中。脚を抱えた身体が落ち着かないのは気付かないフリをした。

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