猜疑心(天発*)(3/3)




泣き出したい。嬉しさと恥ずかしさで膨れた胸。これは満たされる換算?顔を隠したクロスの腕の間から盗み見た天化が、至って真面目に自分の身体と対峙する。良いような悪いような、妙な居心地で。
「っ、から…痛いって」
人差し指を携えて右往左往ならぬ前後運動の準備体操。笑えない事実を唇の横で笑ってみた。
「この辺り気持ちよくねぇさ?」
「……っ知らねぇよ!初めてでわかる訳ねぇだろ!」
半分は嘘だ。
「これだからチェリーはよー…」
本当は少し前から腰のむずむずが止まらない。あまりのことにどうしていいかわからない。膨れた天化の顔を盗み見るのが、ホントは一番嬉しくて堪らない。
「……っ、も、いいだろ、抜けってば」
天の邪鬼と負けず嫌い。
「この辺さ。ここんとこの、ぷくって出っぱってるとこ」
天化の声に増した腰の心もとない寂しいふわふわは、確実に発の身体を蝕んでいた。腕にも脚にも既に力が入らない。
「しばらく擦った後にぎゅって押すと気持ちいいんだけど…」
「おまっ…」
「え?王サマは違うさ?」
「アホか!」
真っ直ぐ過ぎるのもどうなんだ。心底意外そうな目が見えた。
「いっちょ前に言葉攻めてんじゃねぇ、よ…っこの!」
案に自分の好きなこと、イコール発の好きなこと。そんな換算?シンクロしてる天化の指先、二人の思考。天化、天化、天化。
「……はつ」
「…あ゙っ…ぁ」
唱えたら呼ばれた名前がそこにある。きっともう取って付けじゃないだろう二文字に、堪えられない腰が跳ねた。
──かっこ悪っ…!!
思っても言えない。漸くわかった天化が声を抑える理由に、文字通り歯噛みする。
「……っあ、てんっ…」
とうとう首を左右に降ったら、楽しそうな天化が見えた。少し苦しそうに眉を寄せながら、
「……王サマ、デカくなってきたさ」
真っ直ぐ過ぎるのもどうなんだ。
「っるせぇ悪かったな!!」早口言葉はすぐ終わる。
「…──ッ…や、め…!ン、んんっ、」
「俺っちより右なんか…」
だから真っ直ぐ過ぎるのもどうなんだ。最早一人言らしい納得の声に、どうやっても抑えられそうにない声のうねり。自信ありげな顔を見て、馬鹿野郎!喉の奥で罵倒して、きつく目を閉じて。
「あぁっ…あッ…!!」
思い切り声にしたら唾を飲む音がした。どれだけ頑張ろうと"気持ちいい"は告げられそうになかったから。声も指も。求められるらしいこと。捨て去るのは猜疑心。拍車がかかるスピードと身体に灯った火の中で、後で天化にしてやろーかな、こっそり決意を固くした。膨らんで止まらない。腰の心もとなさと寂しさとふわふわと少しの恐怖。
「そっ…こ、やば、天化ッ!!やばいっちょい待…」
「は…」
急に波打つ鋭い快感に追い立てられて脚が跳ねる。気付いた頃にはあの卑屈な靄はすっかり成りを潜めていて、
「っ、いや、だ!って!!……やば、出そっぅ…」
「つ」
この感覚は我慢すべきか手放すべきか、考え込んでもわからない。タイミングもわからない。
「でっ…あ、てんか…」
もう、必死にもがく自分の腰から下は四次元に消えたんじゃないか。わからない、わかんねぇ!もうすぐ全身が消えそうだ。理解するより早く世界の景色が反転した。
「発ッ…」
「え!?あ゙っい゙っ…て」
「…は」
「…痛いって!!ば、か痛い!!痛いって!!」
持ち上げられた腰と脚と貫かれた痛みで知る、消えてないらしいこと。なにをどう間違えたのか、痛みに見開いた目の前で眉を寄せた天化は、すがろうと伸ばした腕を嬉しそうに引っ張る辺る。根本的に通じてない。叩いてもびくともしない肩の力。
「ば…っかお前最低っ…」
「おうさまっ」
「いきなり突っ込むヤツがあるかよ!!」
苦し紛れの踵落としも、ツケが返るのは発の腰らしい。絶頂の手前で貶められたいまだかつてない痛みに引きつりながら、夢中ですがる髪を引っ張った。ベッドが鳴いてる。
「優し、くするっつったろ…や゙ッ…あ」
「すぐ…も、っ…もうすぐ終わるさ」
「っ、これだからチェリーはよッ…」
早く終われ早く終われ!唱える胸の鼓動が大きくて、流れる汗まで跳ね出す始末だ。痛くて堪らない筈なのに。
「王サマ…王サマ!!」
「ばかっ、突くな」
「大好きさ、王サマ、」
「…今言うな!!」
「発」
しがみついた腕の隙間から見た可愛い可愛い恋人は、きつく眉を寄せたままうっとり夢中で揺れている。
ちくしょう、可愛い。いてぇよバカ…
求められる安心と惚れた弱味と、
「……っはつ」
夢中で求められた唇にくっつけば、もうささくれは消えていた。荒い吐息と舌の先の追いかけっこ。痛みの中で腰がむずむず騒ぎ出した。
「……あ、あっ、あ」
「っ、もちいいさ…はつ…」
「ばかやろ…っ」
真っ直ぐ──悪態と一緒に脚で脚を捕まえた。天化曰く"俺っちより右"が見つかってしまったらしい。
「……ッ…天化…あっ、い…てんか…あ」
どうしていいかわからない。いつもそう言う天化の言葉は本当らしい。きもちいい。いたい。くるしい。声が止まらない。ぐるぐる混ざる気持ちがあって。
「天化…てんか…っ」
「──……王サマ!!」
「…ぅあ゙!?」
「……っく、」
腰が跳ねる直前にきつくきつく発を抱き締めた身体が、突き上げて大きく震えて動きを止めた。
「ん…ッ」
「ふー…」
熱い──。脈の音の後に訪れる長い長い無音のとき。もう一度大きく震えた天化の胸が、力なく発と重なった。桃色ほっぺで眉を寄せた胸の上。
「勝手にイッてんじゃねぇよバカ…」
呟いて仕方なく髪をすく。きゅ。音がしそうなくらい寄った眉間の皺とくしゃくしゃな鼻は、何度見ても飽きないらしい。浮かぶ汗。少し赤く上気した鼻の頭の一文字が、また名残惜しそうにゆらゆら腰を揺らせていた。
「いてぇんだよオイ」
「う、わッ…ごめんさ王サマ!!」
「い゙ッ…!?っきなり抜くな!!」
いまだかつて見たことがない程慌てふためく天化の頭が、然る後に下を向く。赤いんだか青いんだか。今度こそ踵落としだバカヤロウ!
「……ごめん」
「ったくよ!!俺こんなむちゃくちゃしねぇぞ!?」
「…こんなに、止まんないと思わなかったさ」
「我慢すんのが男のカイショーだろ」
畳み掛けたら俯く天化。かわいいヤツ。心の中で毒づいてみる。
「王サマがすごく気持ちよさそうにしてたから」
「その手の言い訳お前が一番嫌いだろ」
「……ごめん」
「……で?ご卒業の感想は?」
目と目でぶつかるベッドの上で、しばし首を傾げて二人。
「嬉しかったさ」
「へーえ」
「……気持ちよくって」
「んで?」
「……ありがと、王サマ。」
発が言葉にする前に、強く抱き寄せる腕がそこにある。好きさ王サマ、と呟いて。都合がいいと笑ったらまた狼狽えて、ぎこちなく髪を撫でる指。
「…ったく、トレースするならもう少し上手くやれよ」
気持ちいいとも嬉しいとも言ってやらない。胸に甘えたら、少しぎこちない腕枕を差し出す恋人は、
「まぁこれで天化のお初全部貰ったよな?」
「っ……!!」
今更真っ赤になったりして。ばーか。幼い悪態をつきながら、胸の中はぽかぽか陽気だ。夏なのに春が来たんじゃないか?
「……これでうなされないっしょ。」
ほら、そんなこと言う。真っ直ぐ。寝直すかどうか聞かなくたってわかるだろうに、天の邪鬼はそっぽを向いてため息をひとつ。
「誰かさんがイカせてくれなかったから夜泣きしそう」
首に髪を降らせながら覗き見た顔は、やっぱり赤と青を往復して目が白黒ぱちぱち瞬いた。
「普通わかるだろ、自分だけ気持ちよさそうにさぁ」
小さくなって肩をすぼめる天化なんて、きっと今日しか見られないんだろう。
「俺じゃなかったらフラれてるぜ?」
腕を引っ張ったら、腰が死ぬ程痛いらしい。呻きを堪えてもう一度。
「天化は擦ってから押すのがイイんだっけ」
耳元に告げたら真っ赤な目と目が合ったから、指を繋いでキスをした。ありがとうと宣戦布告も一緒に。


end.



恋を知った天化も男の子なのです。あまりにヘタレで…ごめん…(笑)
2011/10/15

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