「少し自律神経が疲れてるみたいだから、」
「だからしっかり食ってるって!」
なんで!!ゆらゆら、
「良い変化にも悪い変化にも、"変わること"にかかるエネルギーは同じなんだよ」
「なんでさ」
「長い目で見て変えていけばいい。ゆっくりね。」
ゆらゆら、ゆらゆら。どうしても、この独特の間に反抗しながら巻き込まれてゆく垂れた頭は、迷った後前を見た。
「……んじゃ粥とか雑炊とか」
悔しさを噛み潰した子供のそれは、仕方なく言葉を選んで歩み寄る。――長い目で、
「そうだね、食べたいもの彼に聞いてみて」
見たら、一緒にいられるだろうか。守れるだろうか、倒れる前に。
「キミもそう。ゆっくり変われば良いんだよ」
「ってもわかんねぇさ…そーゆーの。強くなるんだからいいっしょ」
「大丈夫、出来るよ。キミたちは」
「なんでさ?さっきから」
「うーん…」
ゆらゆら、掴み所なく極上の笑顔が見えた。
「似た者同士だからかなぁ」
弧を描く目が、まるで自分のことのように優しくて。遠くを眺めるその面差しも、確か遠くない昔に見た筈で、結局思い出せはしないまま放り投げた。
似た者同士?
そうだろうか。
何処が?
今考えるべきはこっちの筈だ。
何処が?
へらへら笑いに負けず嫌いだ。似てるトコなんて今更ひとつも、
「――…か、」
「王サマ!?」
微かな声、跳ねた声。寄せた眉に駆ける脚。
「…だ、くな、」
「王サマ、」
潜り抜けたカーテンの中で、子猫みたいなまん丸の大きな身体が呼んでいた。
「王サマ、…ちゃんといるさ、俺っち」
「…っや、だ――ッ」
いやだ。いくな。いかないで。おいていかないで。
白い白い保健室に微かに密かに零れた心音、小さい悲痛な裂け目の欠片。分厚い胴着は隣のカゴに畳まれていて、毛布の下に裸がひとつ転がっている。不規則な上下のその胸が、確かに伝える不思議な鼓動。
どうしてさ?
なんでこんな無茶するんさ?
聞いてみたくてなんとなく呑み込んだ子供の唇が、迷いながら触れるのを止めた。
固く丸まった拳に掌を重ねたら、
「……天祥より子供じゃん」
ほどけた指に絡まる指。穏やかに戻った吐息の形も、ゆらゆらゆらゆら。優しく丸まった。
「無理しすぎさ、馬鹿」
見ている夢は暖色だろうか?あの虹色が見えるだろうか?
不思議と全く情欲を感じない裸の胸を撫でてみた。ゆらゆら、ふわふわ、込み上げるこれはなんだろう?
「…あー…てん、か?」
「あんま心配させないで欲しいさ」
ゆっくり開いた目にこんな物言いしか出来ないんだから、随分な意地っ張りだ。
「…すげーかっこわるいな、俺」
これだって意地っ張りだ。
「ップ…ある?」
「へ?なんさ?」
「オレンジ、と、あか。…買ったじゃん」
「ああ、ここ保健室さ。家じゃねぇ」
やっぱり見ていたんだ。暖色の夢。そう思ったら込み上げた胸の奥から唇の先まで。
「あー…そっか…そか、白いから…」
「大丈夫さ。今日七草粥作っから」
「アホ、正月かよ」
軽口後にまたうとうと目を細めた髪を撫でたら、張り詰めた熱い目が弾けてくっついた。
裸の胸に顔を埋めて、少し遅い昼寝の時間。聞こえる鼓動は似ているだろうか?
先に行かないで、追い付きたいから。
走り出したささやかな夢はきっと同じ虹色なんだ。夕立の匂いに包まれて、
「ね。焦らなくていいんだよ」
カーテンの外に結露と湯気が揺れていた。
end.
スパコミ帰りにわわわーと沸き出しました。
2011/05/05