先鋒戦法(*)(4/4)





「ん゙ッ…うあ…っ!!」
「はいっ、た。マジで」
「…言わなく、て、…いっ」
「だって」
嬉しいじゃん。すげー嬉しいんだもん。子供みたいに繰り返しながら、真夏の熱い手のひらが髪を撫でていた。
「……うん」
自発的に喜びを伝えられない不器用さも、多分発はお見通しだ。先取りで見せてくれる感情に便乗すると、……やっぱ俺っち、また後手回ってるさ?
ちょっと悔しい真夏のベッド。痛みにひきつりながら、悔しくて頭を引き寄せてキスをした。見開いた発の目が二つ。
「へ、王サマ変な顔」
「アホ」
笑ったら細めた猫目が降ってきた。
「ちょっと、うわ、ごめん無理だ…」
今にも泣き出しそうな発が覗く。
「…ごめんッ」
裏腹に激しく擦れる痛みと衝撃は、初めて見たその顔で帳消しになるから不思議でならない。みんなそうなのだろうか、スキとか触れたいとか、恋とか、愛とか。
「んっ……む、ぅっ…」
唇の狭間で、声は声にならなくなった。張り続けた意地で押さえつける声は、映画みたいなドラマティックもイケないビデオみたいなエロティックにも程遠いのに、どうしてこの人はこんなに夢中なんだろう。天化の思考がぐるぐるぐるぐる。回って溢れる、溢れて溢れて止まらない。いつの間にか跳ね上がる左足が夢中になって発に絡まった。
「…天化、…化っ…てんか!!」
その三文字しか呼ばれないことがどうして溢れかえるんだろう。堪らなく膨れ上がる。どこに答えが落ちている?大きく吸い込んだ息が詰まる。
発の眉がきつく寄る。酸素が欲しい。手持ち無沙汰は困る。どうしていいかわからない。
「天化ッ、好きだ天化…天化、天化」
「…つ、っつ、はつ、発、はつ…きっ…すきさ、はつッ…――!!」
言い放った瞬間に、むせ返るくらいに溢れ返る答え。

ああ。やっぱり好きであってるんだ。

壊れたブリキのスポーツカーみたいに揺れる身体が、スプリングに軋みながらわかった。

好き。
それも一番とびきりの。
すごく。

途切れ途切れの記憶のパッチワークは、不器用なハート型。真っ白で巨大なベッドの上に、また次も縫いとめよう。そう言えば家庭科の授業、裁縫は二人共サッパリだ。

最後に触れた唇の間で、発が零したありがと。どうにもこうにも眠くてだるい混濁の夜に、またもう一度キスをした。

見回した無機質な部屋。
「……れ、…ありゃ?」
天化の首が持ち上がる頃には隣がすっからかんだった。漂う…なんてキレイな言い方が出来ない。強烈な焦げ臭さと甘ったるさが渦巻いた部屋。
「…王サマ?」
「あ、おう!調子ど…」
「全然へーきさ、だいじょー、ッツ…!!」
「…じゃない、よな…」
起こしかけた身体がどうにもこうにも動かない。腰から下が痛みだけを残して四次元にでも消えたらしい。
「だってすげー空気悪いさ…」
「あ、換気扇換気扇!…じゃねぇよ!ほんっとひでぇなお前!」
ったくもーう。天化ちゃんに愛ってないのー?俺にあんなことまでさせといてぇ!ふざけまわる軽口を押さえる腕が動かないから仕方ない。睨みつけた甘いあまいおはようのチュウ。
「……へへ」
「おはよ、天化ちゃん」
「"ちゃん"が余計さ」
だってだって。しばらく続く軽口マーチとおはようの儀式は、不思議と意地を取っ払う。
「これ、つくったんだけどよ」
「うわっ…生ゴミさ?コレ」
「バカヤロ目玉焼きだ目玉焼き!」
「めだま…?」
「…にー、なる予定が変更?クラブハウスサンドもアリかなーってよ。ウインカー変えてみた。どうよ?」
「ベタベタじゃん」
「紆余曲折あったけどフレンチトーストになりました的。発ちゃん特製ってマジレアだぜ?」
「焦げてるさ」
「バカか上手くねぇわ!これならベッドで食えんだろー!あーんするぞあーん!」

ほら。そう言うところがスキなんだ。
「可愛くねぇの!」
「俺っち男だし」
「聞き飽きたんだけど」
「王サマ…けっこーカッコイイさ」
見合わせて笑った顔は、昨日より甘くて凛と近かった。
「今頃気付くなって」
焦げ臭くて甘ったるい。甘ったれ二人。やっぱり時計はベッドサイドに忘れられていた。覗き込んだ天化の目。
「今日午後練…」
「休みゃいいじゃん、今日ぐらいー」
「嫌さ!また遅れたら」
「どーやって踏み込めんの?」
「……んじゃ見取り稽古!」
「だから休めって!俺も休むし!」
「昨日から面着け始まったばっかっしょ王サマの!ヘロヘロしてたら叩き直すかんね!」
「……ああ、見たいんだ?マジで?似合うぜ俺?見とけよ俺の道場デビュー」
「だから叩き直すって言ってるんさ!すぐうかれるから!俺っちが最初に稽古つけたときから進歩ないじゃん!」
「…もしかして妬いてる?妬いてる?」
「んなわけねぇさバカ!!」

ぐちゃぐちゃのシーツの上で、幼いキスにこ洒落たブランチ。子猫がころころ転がっていた。
「…なぁ、やっぱもう一回だけって」
「無理!」
「じゃあ触るだけ」
「………」
「かーわいい天化」


走って出掛ける真夏の太陽。その5分前までじゃれ合ったのは、甘ったれの秘密。
仕掛けたのはどっちだ?


end.




お初って、何回書いても特別で好きです。(何回も書く自分がどうって話)
2011/03/31

[ 4/4 ]



屋上目次 TOP
INDEX


[TOP 地図 連載 短編 off 日記 ]
- 発 天 途 上 郷 -



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -