「…うわッ!うっそだろ最悪!!」
頭を上げた発の声。
瞬く間に二人の全身を叩き付ける水の渦。ここまで強いと給水タンクをひっくり返したみたいで。
水圧の鋭い痛みと轟音に、雨の跳ねる独特の匂い。入道雲とスコールに不意を突かれて、丸い目を見合わせた。
「…どうするよ?」
どうするもなにも。
「……頭冷えたさ」
冷えたのは頭だけじゃない。足の間の身体を勝手に足で追いやって、溜息と共に締め直すベルトが重い。
「あ゙ー、なんかすっげーデジャヴュ!」
叩きつける雨の音にクレッシェンドの発の声。
思い出すサブグラの土埃と花壇のホースに衣替えの日。眩しい太陽。髪の一本から上履きの爪先まで、まるで映画のように浸った雨水。それ程劇的な色っぽいことはしていないけど。
「天化ってさー」
屋上と4階を繋ぐ階段の途中で、すっかり顔も見ない左隣の可愛いヤツ。
「…なんさ」
「いや、やっぱ白黒だなーと思ってよ」
「へ?」
「んー、シロクロっつか…あー、やっぱ白黒か。面白いよな」
「意味わかんねぇさ」
「似合うと思うぜ?黒。」
天化の頭に浮かぶ疑問符がまたひとつ。二色のコントラスト。モノトーン。昨日のハジメテ。真っ白いひとりの"王サマ"の部屋とリンクした。
「…王サマはもーちっとあったかい方がいいと思うさ」
「あ?なにが?」
子供みたいな目で真剣に言う左隣に、発のシナプスが繋がった。
オトナでコドモで。生意気で従順で。煙草に剣道。笑顔と憂顔。ツンでデレでエロでウブ。最後の方は、言ったらきっと生意気な方に叩かれそうだけど。
「ほら、お前やっぱ白黒じゃん」
「だからぜんっぜん意味わかんねぇさ」
「ああ、わーりぃ!バカだもんな!」
「うっさい!」
ほら、可愛くなくて可愛くて。
「あ、」
「ほら、やーっぱ暖色の方が似合うっしょ!」
魔法のように一瞬で去った夏の恵み。誰が言ったか、幸せのバウムクーヘンの欠片みたいな七色の空。屋上のフェンス。響く口笛は心底楽しそうで、可愛くて読めなくて。
「…男色?」
「うん。あーた絶対そっちの方がいいさ」
「だから別にソレが趣味なんじゃねぇって」
「でもそしたら寂しくないっしょ?」
「どーゆー意味だよ?んっとわっかんねぇ…」
「へ?だから…」
ほら。
柔らかい唇の弾力。いつのまにか治ったささくれ。
「天化だけだっつったろが」
不意打ちのキスに真っ赤になる暖色のコントラスト。さっきまでのこととこのキスと、一体どっちがどう恥ずかしいんだろう。
「……わーってるさ、そんなの」
俯いてもう一度、上がった顎と重なる唇。
ほら。
噛み合わないのに噛み合ってる。
だから二人がちょうどいい。それも多分、好きの一部。
「テスト開けたらよ、どっか行かね?デート」
「デートって別に」
「どこでもいいし。天化行きたいトコねぇの?」
「ぶか」
「部活抜き!」
「……考えとくさ」
「おうっ!」
やったやった!天化ちゃんとデ〜ぇトっ!
鼻歌と共にくるくる回った少し高い頭のてっぺん。濡れた黒い髪と踊る水しぶき。
そんな風にオトナでコドモで、いろんなことを教えてくれて余計なことも吹き込まれて、エロくて純で、真面目で馬鹿で、あったかくてひとりぼっちで。今も一緒にサボってる癖に、出かける予定はちゃんとテスト空けに組んでる背中。
「……かわいい人さぁ」
「あん?なんか言った?」
振り向く首がふにゃりと笑う。
「スキって言ったさー」
「えっ…え?なに?素直じゃーん」
「うっさい!」
その笑顔を見たいとか、見られるのが癪だとか。コントロール出来ないヘンなコントラスト。
それもやっぱり、好きの一部。
end.
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続・らっぶらぶ!これから夏です!(今冬なのに…)
2010/12/19