三度目の正直(2/2)




黄の表札に開いた玄関のドア。
「発ちゃんだーぁ!」
「おう!」
ただいまより天化より先に発に飛びついた天祥に、天化の胸がざわついた。一体どっちに対する嫉妬やら。散らばる靴は男数人分で大混雑だ。
「今日いつまで遊べるのー?ねぇお泊り会しよ!」
「え?あ、いや…」
チラリと走る発の目に、天化の耳が赤みを増した。
「…天化ー?」
「…晩ごはん食べるまで」
「えー!?やだ!つまんない!」
台所と隣り合わせたテーブルで、発の膝は天祥が陣取る。

ふと止まる天化の手。いつもなら部屋に戻って制服から着替えて、それから取り掛かる夕飯作り。
…どうなんだろう。
着替える、着替えない、それ以前に沸きに沸いてる頭の中。
ぐるぐる模様とキスの感触の延々ープ。背中に刺さる発の視線に無邪気な弟の声。

発の目はオトナの目だ。
きっと色っぽいとかセクシーとか、天化とは縁遠い目。
その目が見てる。
ぐるぐるループの好きと下心に、今更ながら羞恥のループ。気付いたら止まらない。

「にいさまー?」
「天祥!ご飯の前に風呂入ってくるさ!」
生姜とネギのみじん切り。恥ずかしさも一緒に消えればいいのに!
「やだー」
「晩ごはん抜き!」
いたたまれなくなって叩きおろす包丁の音に、渋々去った天祥の気配。ああもう、ペースが掴めない。

「てーんーかー!」
嬉々とした声に思わず身構えて、またループする一連のソレ。
「悪いおにーさん」
「っなに言うさ!」
「じょーだんだっつの」
背中にすぐ近い体温に跳ね上がるぐるぐる模様。乱される低い声。今、いま、抱き締められたらどうしよう、……振り向いたらキス出来るだろうか。さっきみたいに。ぐるぐるループ。
「天化」
「…っ」
不意に優しく優しく触れられたほっぺちゅう。心臓が跳ねたのは自分だけ?
「なんか手伝うことある?」
本当は唇に期待したなんて、口が裂けても言えない。
「……え、あ…あー、じゃあ、冷蔵庫のひき肉出して豆腐の水切り」
「ミズキリ?ってなに?どれ?」
「それから後ろの棚の豆板醤と片栗粉とソースと」
「待て待て待て!ありすぎてわかんねぇ!」
思わず噴出して笑ったダイスキな人。


頬に触れる唇も、予想外で驚いて嬉しくて、またして欲しいなんて口が裂けても言えない。
背中を走り抜けた寒気と酷い安心感に、体の前がシンクで塞がってて王サマは後で助かったなんて。悔しさと恥ずかしさで死んでも言えない。
どうして男ってこうなんだろう。それとも自分だけ?

ほっぺちゅう。
今度は自分がしてみたいなんて、絶対言えない。
…いいさ、後で絶対してやるから!

「やっぱり鍋サバキってゆーの?かっこいいよな、お前」
「そうさ?」
「おう、もうプロじゃん」
「……」
「照れんな」
「違うさ」
「ただいま兄様」

響いた天爵の声に引き戻される日常に、冷や汗と共に噴出したダイスキな人。

天化特製麻婆豆腐は、腹ペコ兄弟プラス1の胃袋の中。あっという間に満たして消えた。残った大盛り一皿は、夜中に帰る父の夜食用。

「…えーっと…天爵、カギ…」
しどろもどろな兄の声。
「俺んちでテスト勉強するからよ、悪いけどにーちゃん借りてくぜ!」
言い訳慣れした隣の声。
一緒に行くと叫び倒した天祥の腕は溜息の天爵が引っ張った。

「……うあー…最低さ俺っち…」
「そーかぁ?」
結局制服のまま出てきて良かった。使う予定もない辞書を突っ込んだ鞄は肩に。
「あのままお前んちでって方がどうかとおも」
「うっさい!」
肩の鞄が後頭部にヒットした。



end.
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好きになったら(気付いたら)一直線。
次から両想い編で続きますので、読んでやって下さい〜!
2010/12/08

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