健全・不健全(3/3)




黒髪に夕陽が落ちる。白に近い空に混じる灰と橙と紫と赤と青。茂る緑。薄く淡い月。
一緒に欠けてしまいそうだった。
なにが?わからない。
「天化ー!」
後ろからかかる声。知っている声。今は聞きたくない。
「てーんーかっ!」
バタバタ走る足音に鞄に菓子袋に、いっちょ前に竹刀袋。
「どうよ、稽古」
飛びついて肩に回る腕が、嫌だ。酷く嫌だ。その軽々しい所が嫌だ。
「俺も明日っから道場入っていいってよ!」
「……ふうん。おめでとさん」
「なんだよソレ」
応える気になれない。散々素振りが空振りした。触るな。面倒くさい。腹立たしい。この間までヘロヘロだった"王サマ"が、ちょっとの間に追い付いた。嫌だ、軽々しくそこを飛び越えられる辺りが、凄く。

すぐ息切れしてた癖に。今顔の横にかかる息は乱れてすらいない。

煙草捨てなきゃ良かったさ。
そんな言葉が出そうになって、口に残った飴玉を噛んだ。噛み過ぎて曲がった棒。そんなに強く噛んだ覚えはないのに。
「天化?」
その声が、いやだ。わからなくなるから。ふつうにしていられなくなるから。
「天化、お前なんかヘンだろ。」
「…べつに」
「あー、ヘンなモン食った?」
笑い声に千切れそうな身体は、一体何処が痛いのかわからない。てんで見当がつかない場所から蝕まれる。嫌だ、乱される。
「知らねぇさ」
「なぁ、俺本気で心配」
「王サマには関係ないさ!」
「…ってめ…」
「ほら、すぐムキになるさ」
"王サマ"に首を掴まれた。前も確かこんなことを言った。なにかが違う。ああ、あの頃はまだ赤いネクタイを締めている時期だったから。
「天化」
目の前の"王サマ"の顔。
見たくない。

柔らかい。
意味が解らない。
理解する暇を与えてくれない。

触れている、唇と唇。

意味が解らない。
キムチのポテチとイチゴの飴のその味は、離れても酷く不快で仕方なくて。
見たくない、なんでなんで!
本当に目と鼻の先で焦点のボケた王サマの顔。多分、色っぽいとかセクシーだとか、そんな形容が似合う表情なんだと思った。
見たくない。そんな顔。
「…天化、」
「ふざけんのもいい加減にするさ!」
湿った吐息がかかった二回目のキスを目前にして、突き飛ばして走って逃げた。
押した身体は、予想に反して大してブレない。

わかんねぇわかんねぇわかんねぇさ!

駆け出した夕焼けと一緒に空に溶けて消えてしまえばよかったのに。

一人残された泣き出しそうな顔。
「なんだよあれ…」
目を細めたら空が霞んだ。
「バカじゃねぇ…」


end.
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やっと動いたラブ要素。
下ネタなら無尽蔵に浮かぶのに…私。
2010/12/01

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