しりとり(2/3)




枕の横で、音なく震える黒い電子機器。ディスプレイの表示には覚えはない。それでもとっくにつく予想に溜息が出た。
「……もしもし?」
『お、オレ!』
「誰さ?」
『俺、俺!』
本当は聞かなくてわかるその声は、相変わらずの馬鹿な声で、聞けば酷く安心する。
「…切っていーかい詐欺師さん?」
『ばッ馬鹿!ほんっとお前』
「冗談通じないさ?」
『おーう、わかってんじゃん!』
笑い転げる声に、あんなに苛立っていた気持ちはもう何処にもない。ただ酷く、温かい。
「ってか番号教えてないさ」
『お前寝てんだもん。俺のケータイにかけといた』
聞きながら横になるベッドの上。静寂に上塗りする温かい笑い声。他愛無い会話…をする訳でもなく、用事もなにもなく、ただ王サマの笑い声を聞く。それだけで良い。心地良いから。

眠れない。いつもならバイトに明け暮れている筈の時間で、しかも今日は保健室の昼寝プラスアルファだ。子供じゃない。冴えた目は、あまり動かしたくないけれど。
『てんかー?』
「んー?」
『子守唄歌ってやろーか?』
「うわー聞きたくないさ」
憎まれ口に笑い返す声が胸を満たす。なんだろう。何故だろう。瞬きをした覚えはないのに目が熱い。仰向けの目尻、頬、耳、顎。一筋伝って、小さな川が滝になる。穏やかな涙の息吹に、心音が重なった。

ふと気付く沈黙。

「今、ドコいるさ?」
『…俺の部屋。なに、そんな毎日遊んでると思ってんの?』
「違うさ?」
『俺にだって悩みくれぇあんだよ、馬鹿』

静寂に吐息が響く。
ここは隣に父や弟の存在が感じられる程の部屋で、

「王サマ、ひとりなんかい?」
『わりーかよ』

無機質な壁に反射した音が、見えた気がする。

「俺っち歌ってやるさ」
『聞きたかねぇ!』

重なる笑い声は無条件で胸が熱くて、今はそれで良い。
勝手に始まった山手線ゲームや古今東西、マジカルバナナ。ただ声を聞いている。ふたり。気持ちいい眠気とギリギリの浮遊間。ちぎれて飛びそうな意識は、この歳ですると思わなかったふたりとしりとり。
『しりとり。り』
「リンゴ」
『ゴリラ』
「ラッパ」
『パンツ』
「釣り」
『リス』
「す?……すき」
『キス』
「…好き」
『キスしたい』
「……い。」
『い。』
「…いいさ、王サマなら」

酷く、甘くて心地よくて、身体がふわり宙に浮く。暖かく包まれて、夢の国へ。

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