気のせい(2/2)




ドリンクバーだけで粘られて騒がれることが迷惑で迷惑で仕方ない。腹の底がぐらぐら熱い。
三時間も経ってから引き上げた団体を尻目に、時計を見ればもう夕飯の時間も近付いて、それでも時間は止まらない。
「お先失礼します!」
着替えて叫んで走って帰って。
「にいさまーお腹すいたー」
「ちょい待ち!天祥、宿題やったさ?」
「……だってにいさまもお父さんも遅いんだもん」
野菜炒めに取り掛かりつつ、足にへばりつく弟の頭を撫でた。上手く会話が成立していないのは気のせいではない。
「オヤジは?」
「遅くなるって、電話…つまんない」
無理もない。まだ小学校にあがったばかりでこの男所帯。謝ったらいいものか、それならバイトを減らして遊んでやったらいいものか、甘えるなと怒ればいいものか、わからない。
見失いすぎた。大好きな筈のモノ。

「ちゃんと寝てるさ!もうちっとでオヤジ帰ってくるから、鍵…」
「わかってる…ちゃんと閉めるよ。お父さん鍵持ってるんでしょ」
パジャマの背を翻した弟は、自分よりきっと大人だった。わからない、なにがなにやら。
家の周り走って、今の自分にはこれが一番いいのだと、そう言い聞かせて自主トレーニングは終了。確か、去年はこのコースに希望を託して走っていたのに。
真っ暗闇、だ。

「おう、おせーぞ」
すっかり仲間に入れてもらった交通整理と工事の現場で、自分は20歳・フリーターの黄天化。
箱で投げてくれる煙草を受け取って、
「サンキュ」
いかつい仲間と吸い合った。
当たり前だ、年齢詐称をしている自分。おかしくない。じゃあなにがおかしい?わからない。

「お、」

どうしてだ…どうしてここに現れる?

「なに、天化ここでもやってんの?」
「ふらふらしてっと補導されるさ、あーた」

きっとクラブ帰りなのだろうその人は、煙草は無視して肩を抱く。どうしてなのかわからない。苛立って苛立って、わからない。

「俺、誰かさんと一緒でフケ顔だからかなー。そういや一回も補導されねぇや」
周りに聞こえなかっただけ有り難いと、そう思わないといけないのだろうか?
「なに?学歴不問、履歴書不要、ってトコ?それでドカチン?」
「"王サマ"には関係ねーさ!」
放った言葉に、肩を抱いた手が強張った。誰かが言ってる名を呼んだだけ。それだけのこと。
「…俺は発、だ!バカヤロウ!」
身を翻すその背中が、妙に小さく見えた。きっときっと、気のせいだ。


end.
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やっと黄家と発ちゃんに触れられました…!次から大きく動きます多分!
2010/11/12

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