シーソーゲームとひとりしりとり。(*)(3/3)




どうしよう、どうしよう。
声も音も天祥に聴こえたら。どうしよう、きっと天爵には隠せない。オヤジが帰ってきたらどうしよう。ベッドがうるさい自分もうるさい。こんなことしてるなんて。どうしよう、どうしよう…!
ぐるぐる模様の天井はもう見えなくなって、天化は首を打ち振った。頭が真っ白になるまでもう少し。

王サマ。発ちゃん。発。

「ぁ、つ……ッ…!!」

爪先と一緒に顎も天井に向かって伸びた瞬間、瞼の裏で眉を寄せて真っ赤に染まった苦し気なあの笑顔が見えた気がして、両手の中がたっぷり濡れた。震える吐息も震える肩もまだ止まらないまま、ぼんやり見やった宙にその人がいる筈がないのに。

「すげ、いっぱい出たなー。気持ちよかった?天化ちゃんっ」
「──っ、はぁっ…」

急に競り上がる鼻の奥の痛みと身体の奥のムズムズが堪らなくなって、おっかなびっくりなだらかな身体の奥に触れてみる。

「…っぉ、おかしいさこんなの…!」

おかしい。
おかしい。これじゃまるで、誰かに触れられたいみたいじゃないか。たった今シャセーは終わったじゃないか。目の端に浮かんだ涙は頬を伝ってシーツに落ちる。
タオルケットの下で無意識に開いて立てた膝が、勝手に指を誘い込む。俺っちがしたいんじゃない、頭の中の王サマがしたがってるから仕方ないだけさ。放って置いたら夢見が悪そうだからさ。そんな言い訳と一緒に進み続ける指先に、大きく跳ねる腰が止まらない。

「一本入ったぜ、痛くねぇ?」
そう言って笑うから、首が縦に動く。
「わかるか?二本目」
だから動く。
「天化かわいい…すげぇかわいいっ…かわいい、大好きだ…」
そんな馬鹿な。これじゃまるで、そう言われたいみたいじゃないか。
「違、う、違うさ……っ」
そう言いながら指が暴れるから腰が止まらない。足先を突っぱねてタオルケットをかじった。

「好き。だいすき、天化。愛してる…」
「ン…ぅ…ぁっ…」
聴こえる声。
「ん?ほら、きもちいい?」
「……ん…」
二人重なる甘い声。
「入れていい?」
「……っ」
睨み合うぶつかり合う切ないカオ。
「…なぁ、まだダメか?俺我もう慢出来ねぇ…っ!」
「は、やくするさっ…ばか…!」
いつからだろう。発がそう尋ねるより先に天化が我慢出来なくなるようになったのは。そんなことは悔しいだけだから。発が余裕なく尋ねる顔を見たいから、それでも必死に我慢する。繋がるその瞬間は、例え方が見付からないぐらいの圧迫感と瞼の裏の赤と白のハレーションに震える。

それって、しあわせの色じゃなかったっけ。
すっ飛ばした現国問1。次の文章の空欄に当てはまる熟語を答えよ──答えは至福か多幸か幸福か。もしかしたら、カタカナでしか知らなかった本物のヨクジョーなのかも知れない。
その答えに行き当たったら、余計に身体に火が着いた。身体の中に消えた指は、もう何本かなんてわからない。

タオルケットはひとりの匂い。どうしてこんなに沢山の欲望をしまっていられたんだろう。もしかして王サマよりセーヨク強かったんか?
そんな罪悪感も、ぐちゃぐちゃ動く発の残像と一緒に腰が揺れて涙が出る。あのしりとりの日、電話の日。あんな風に繋がりたいのに。

火が灯り続ける身体は厄介だ。タオルケットはひとりの匂い。天化がいくら眉を寄せても吐息を吐いても、時計の針の音しかしない。とっくに、父が自室で眠る声がする。イビキの轟音に、発と夏の残像は掻き消される。季節外れの線香花火みたいだ。

「……っ、ぅ、サマぁっ…ゃっ…も…くるし、さぁッ…ぁっ」
ずっと敏感に伸ばしっぱなしの足の先も、震え過ぎた腹筋も、酷使した右手も左手も、信じられないぐらい疲れてるのに。受け入れ続けたアンナトコはもうひりひり痛み出したのに。さっきシャセーを終えたばかりのそこだって、痛いぐらい、哀れなぐらい張り詰めてるのに。絶え間なく息は上がるのに。もうすぐ頭が真っ白になる、あのシアワセの瞬間が来そうなのに。ひとりだからできない。なれない。狂おしくて涙が出る。
タオルケットを噛んだまま、途方に暮れて身を捩った。段々誰かが恋しいキモチとシャセー出来ないもどかしいキモチがごちゃごちゃに絡まって、天化の身ごと焼き切れそうだ。
ふと見た時計の針は一周回って短針と長針がまた出逢う。外から薄い陽が射して、こんな情けない黎明なんて!にわかには信じたくない。もうすぐなのに、もうすぐなのに!

原因はひとつ。いつも発がくれる多幸の答えを感じる場所に、天化の指は届かないから。
これじゃまるで、発に触れられなければセーヨクショリすら出来ないみたいじゃないか、あんまりだ、王サマのバカ!変態色魔のエロ河童!人のカラダ改造しやがって!

思い付くだけ罵倒して、遂にうつ伏せに引っくり返る。高く腰を上げたのは、その方が手が楽だから。断じて違う、誰もいない天井を見たら瞼が震えて泣き出しそうになっただとか、そうしたら奥に触れられるんじゃないかなんてイタズラを思い付いただとか、そんなのは断じて違う。否定に首を振り続け、揺れる腰も振り続く。
枕に顔を押し付けたとき、遂に聴こえたんだ。

「っ、天化、イキそうだろ?ほら、ナカの奥、びくびくしてきたぜ…っかーぁいい…」

嬉しそうに言うなバカ!
いつもならそう言えるのに、慣れないことをしたからだ。張れる虚勢は微塵も残ってないんだ。

「──っ…んっ…うん…っ、お、サマっ…!ぁ…イキ、そ、さぁっ……っ」

本人になんか言ってやらない。枕にだから言えるんだ。天の邪鬼と意地っ張りと負けず嫌いの塊で、そんな天化が言える筈ない沢山の睦言は、涙と一緒に枕に還る。

「……ぁっ、あ…ッ!お、うサマっ……おーさま…っ!きも、ちっぃ……ぅ、ぁッ…は、つぅ…もっと…はつっ…ぅ」
涙と汗と涎に濡れた枕を抱えて、腫れ上がってしまったそこはシーツ──訂正、発の掌に甘く甘く擦り上げられて、身体の奥は貫かれて、目眩の信号が止まらない。
「天化、てーんーか、もっと声聴かして…」
「いっ、やさ!」
「だーめ。"あぁん王サマぁ"って聴けるまでイカせない」
「やっ…いやっ、──!…っ、ぁっ…王サマっ………。王サマぁあっ、あっ、あっ、あぁっ…!」
「ん、天化イイコ。イッていいぜ?オレも…天化の可愛いカオ見てイキてぇっ…な?」
「やさっ!……王サっ…ぁっつ、はつ、も……!」
「ん……天化、天化…っ!」
「は、つ…ぁ、はつ、はぅっ…はつ…好ッ…き……すきさ、はつっ──!!」


後は覚えてなんかいる筈ない。ネジだかタガだかブレーキだかが外れた古いシーソーみたいだった。貫かれて擦られて抱き締められて、身体が感じる"好き"をたくさん。素直と意地っ張りのシーソー。シアワセと寂しさのシーソー。
ガタガタ揺れながら思い出して声にしたら、ついに目の前が真っ白に弾け飛んで、
「ぅぁあ…──ッ!」
派手に震えた桜色の身体は、ぐったりシーツと仲良しだ。

「うげっ…」
裸の腹筋と、掌から本来の姿に戻ったシーツがサンドした白いぬるぬるも、もう片付ける気力なんか残っている訳がない。──いつもは、誰かさんがしっかり両手で受け止めてくれるから、自分のそれでシーツを汚すなんてことはないのに。自分の身体の中で弾ける筈の発のそれも、遂に感じることはない。

タオルケットもシーツもひとり。

ふわふわ気持ちいいまっしろの中で、
「おうさま…すきさ…さみしい、いっしょ、が…いい、さぁ…」

さみし、い。

寝惚け声みたいな渇れきって拙いつたないひとりしりとり。初めて知った恋とヨクジョウは、もしかしたら途中から夢だったのかも知れないけれど。ゆっくり瞼がひっついた。
まだひとりの身体はふわふわのカイカンを追い掛けて、恋しくなって痺れてる。

目覚ましまでの後1時間。二人の夢を見た気がした。


end.

天化から求めるすれ違い、まだ暫く切ない予定。

2013/06/25

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