シーソーゲームとひとりしりとり。(*)(2/3)




父を待つ自室は静かだ。なのにうるさい頭の中。今日は慣れないことに頭を使い過ぎたらしい。

今あの人はどうしているだろう。無理してないか。痛む腹を抱えてやしないか。鞄の底のA4用紙。慣れないフォントが頭の中で乱舞する。

網戸から吹き込む秋風に身を擽られて思う。発とは、あまり秋を感じたことがない。元々恋人達の行事になんか興味がない天化でもそれはわかる。だって四季の匂いも味も大好きだからだ。
「……ぁっ…、え?」
そんな物思いに耽りながらタオルケットにくるまって。漏れた声が、何故だろう。凄く熱い。ぐるぐる天井が回る気がして、今度こそ頭までタオルケットを引っ張り上げた。
「──…っ!?」
するする、さらさら。
小さく丸まったパイルが肌を包む。何故だろう。太陽の匂いは誰かに似てる。視界に入る筈がない発の喉仏が上下した気がして、思わず爪先が震えた。息が荒い。手を伸ばしても届かないのに。

ちがう。こんなの違うさ──脳内で反芻してみても、今度は発が笑うだけ。目を細くして首を傾げて天化の機嫌を伺って、
「天化……触っていいか?」
そんなこと訊くなばか。なんで今訊くさ、俺っちは親父を待ってんだ!真剣さ!王サマのバカ!──そうやって天の邪鬼なオウムが返せば、嬉しそうに髪をかきあげて鎖骨に唇が落ちる。そんな瞼と夏の残像。
「だってよ、もうずっと触れてなかったろ?」
「ん……っ…」
「てんか…」
ゆっくりゆっくり。発が促すから天化の指はタオルケットに潜る。するする鎖骨で踊った後は、鳥肌を追って胸を走る。ふっ、ふっ。変な息が冷や汗を呼び起こして、ぎゅっと脚を閉じた。閉じて伸ばして左の爪先を跳ね上げて、
「天化ちゃんのおっぱいかーわい!ピンク!」
騒ぐ声をこっそり罵倒する。うるさいうるさいばか!それでももっと触ってくれるらしい発の残像が笑って天化に口付けるから、やっぱり踵落としの爪先も伸びたまま。

最後に発が触れたのは、発と抱き合ったのは何時だろう?もう夏休みの遠い昔。


早く大人にならなくちゃ。
いつまで子供でいられるだろう。

触れなくなったあの日から、何度か起き抜けに下着を汚したのが悔しい。なんたる失態だ。なんたることだ!つける悪態が尽きてきた。
「んっ、っ…ふ…ぅ」
甘い息が鼻と口から一緒に漏れる。すっかりきつくなったハーフパンツも、着替えたばかりの下着も仲良くベッド下に脱ぎ捨てて、タオルケットは腕の中に抱き締めたまま。天化の指はするする踊る。

きっと、身体中が桜色。発とはまだ見たことない、秋の紅葉色になってるんだ。
自分が自分に触れることは、イライラしたり下着を汚したりしない為の定期的な義務だと思ってたのに。違ってた?違う。セーヨク?……違うさ──。
額と鎖骨、股に浮かんだ汗の粒が弾け飛んで、胸と鼻がぎゅっとなる。苦しい。痛い。嫌さ、くるしいいやさ、きもちいい。
天の邪鬼な声に反して、ハの字眉毛はいつも素直だった。

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