奪い、与う、保健室の帰り道(3/3)





均衡が崩れたのは、二限も終わりの頃だった。
「ふげーん!普賢!腹が痛い!!」
唐突に間延びした声が強襲した保健室。現から覚めた発が聞き違える筈もない。あの間延びした声がちょっとだけ緊張したのは、
「ビオフェルミンおくれ!」
「太公望先生、まず最初は?」
「うぬっ…あー…失礼します」
やはり敵わないかららしい。布団の中で発は笑う。
「で、腹が痛い。とにかく痛い。死ぬほど痛い。わしが死ぬ前にビオフェルミンと桃を──」
「胃潰瘍はビオフェルミンで治りません。何度言ったらわかるかな?」
「たーわーけ!そこをなんとかするのがおぬしの仕事だろーが!」
「四限空き時間でしょ?休んで指定病院に行きなよ、望ちゃ」
「嫌だっつーに!胃カメラ飲んでたまっ……」

発に見えないその丁々発止は止まらない。激流みたいな悪口ごっこに、カーテンの中で浮かぶはひとつ。

天化のかお。
悪態のフリ。
そんな愛しくて、馬鹿で、たまらない応酬。

そして続く、弱々しい泣き虫の応酬。それはあの鬼の現国の、
「……望ちゃん、ねぇ、」
「……三者面談…いやだ」
「望ちゃん…」
「……共犯には…なってくれぬのだろう」
「……うん、……今度はね、君を」
らしからぬ、ただならぬ声。

「あ、あの!サーセン俺やっぱ教室戻りまぁっす!!腹イタ治ったんであざーっした普賢センセッ!!」

ただならぬ雰囲気に、上履きを突っ掛けて叫びと一緒にカーテンを飛び出した。

「だぁぁあぁあ何故におぬしがおっ──!普賢!!先に言わぬかダァホ!!姫っ…あ、発!ぬぁ!?」
ひっくり返った担任を見ないフリしてやったのは、発なりに大人になったつもりのこと。


最後に良い淀んだ自分の名前に、少しだけ感じたへんてこなパズルの形が、今度は少ない頭を痛くした。だけど。

「……センセーも、三者面談ってイヤなモンなワケ?……なんっか…」

──意外。だけど先生らしい。でも。

「ワケあり、ってか…?いや、サボり…?」

不思議な心地がした。いろいろ混ざって秋の廊下。聴いたばかりの担任の悲痛な声と、腹痛を携えて身を粉にしているらしいこと。

急に、本当に急に。
天化を抱き締めたくなって。

誰かに会いたくなったんだ。他の、誰か。

『……劇的に、奪うことが上手いヒトはいるよね。だけど、劇的に、与えることが出来るヒトもいる。君もそうだよ。きっと他の誰よりも。だから大丈夫。』

去り際に走り寄ったカウンセラーから手渡された一筆箋に書かれたブルーの万年筆の字が、なんだかよく意味もわからないけれど。

会いたくなったんだ。

そんな保健室の帰り道。


end.


これから三者面談編が佳境。白面猿猴を出せて嬉しかったです。

2013/04/06

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