来襲、静寂、ドロップキック(3/4)




いつの間にか形成されたコンビ像が、胸の中で溢れてまばゆくて。夕暮れと共にそこまで考えて、そうか?まばゆいかぁ?発の脳が立ち戻る。多分そんなに可愛くはない。
「「ん?」」
「いや…」
二人並んだ肌の色に垂れ目と釣り目のバタ足の想いの先に、少なくとも自分がいるんだとしたら。気付いてみたら、想像以上に嬉しいらしい。
「……お前帰らなくていいのか?」
裏返しが射す肌の上。少し迷った声の主が、いつまでもと告げていた。
いつまでいっしょにいられるの?
ずっとね。
そんなやり取りは記憶があった。やり取りだけ。
「いい加減帰れよ」
「ここに住むって決めてきた」
「住むなって」
笑い声が響く部屋。そう言えば、もう一人の垂れ目の傷の方はいつまでいるんだったっけ?聞いたことはなくて、視線を投げたらキッチンに消える。――そうなんだよなぁ。発の胸が部屋へと戻る。そうなんだよ、
「お前さー、プールどうなったよ?顔つけられんの?」
「へっへー!やっと聞いたか!25M達成したんだぜ!?」
「えええ!?」
そうやって泳いで行くんだよな、いつの間にか遠くまで。
「平泳ぎ?」
「クロールもだぜ!平泳ぎは42M!脱・カナヅチ!!」
飛び上がる歓声に水しぶきが重なって、どうやら重なったキッチンの視線と興味もここに戻った。ぱたぱた裸足の音がする。
「すげぇじゃん!どうしたよお前…あ、」
「ん?」
「なるほどな。わかった、お前好きな子できたろ?」
「――……そんなわけねぇだろ!!」
「いーや嘘だね!俺に隠し事できると思うなよ〜」
ぱたぱたの裸足に逃げる真っ赤なペタペタの音で確信した。そっかそっか、なるほどな!口の中でからかいながら追いかけるキッチンで、引っ張る末弟の腕は確実に子供のそれで、発も過ぎた成長期前の、
「百年早いぞー、おら!吐け!」
「離せって!小兄の馬鹿!!」
「それでさっきから宿題とかクラス委員とか」
「クソ兄貴!!小兄のばかっ」
夢や理想が輝くときだ。頷けば反発、叩けば背伸びのそんな時期。今日一日で当り前になったひとしきり騒ぐその声がキッチンの向こうに助けを呼んで、駆け付けたおたまが叱りつけるのは兄の方。あまりに覚えのあるその感覚は、確かにまばゆい光に似ていた。
「……小兄はいるのかよ」
"好きな人"。そうとすら紡げないらしい成長途中の少年の口は真一文字に結ばれて、
「……うん。」
そうなんだよな。見開いた目とスローモーションで落下するおたまのお約束は、きっと誰も忘れないんだろう。
「いるぜ?すげぇ大事な奴。」
そうやってオトナになろうと思うんだったっけ。腕の中で見上げるそれは、オトナを慕う子供の目。おたまを拾うのは棒立ちの可愛い照れ屋のそれだった。
「……俺っち風呂入ってくるさ」
「…オレ様も!!」
「じゃあ俺もっ…」
「王サマはくるんじゃねぇ!」
「発兄は入んな!」
沈黙の訪れた晩夏のマンションで、居心地の悪さもくすぐったさも、全部が全部腑に落ちた。飴色に透き通った幼い羽の脱皮の日。

[ 3/4 ]



屋上目次 TOP
INDEX


[TOP 地図 連載 短編 off 日記 ]
- 発 天 途 上 郷 -



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -