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晴れた日に出会った遊び人


晴れた日だったと記憶している。
「ふぅん、随分賑やかさねぇー…」
降り立ったばかりの地上は、自分の知っているそれとはなにもかもが違っていた。口元から一筋ののろしを上げながら、続く街の通りを眺めて歩く昼下がり。鼻を突く香辛料の匂い、暑すぎず寒すぎずちょうどいい気候。悪く――否、自分らしく言えばどっちつかずだけど面白くて嫌いじゃない面白い気候。明るく豆腐を売る者があれば、看板娘は柄杓で水打ち。手を引かれた子供が飴細工をねだり、一通りたしなめた母親は、笑いながらひとつだけね、と手をとった。

そこに存在するものは、所謂平和≠ネのだろう。

「よう!」
突如明るく叩かれた左肩に、弾かれた黒髪と白いバンダナが飛び上がる。
「お前、ここらじゃ見ねぇ顔だな」
これは所謂袖引き≠ゥ? 長身の男の影が降る。首筋と肩の後を斜めに隠す長い髪に調子のいい声で、歳はさして変わらないだろう。目下忌むべき敵ではない、ことだけは雰囲気でわかった。疑う余地もなく武術には長けていない。
「なぁ、豊邑初めて?」
「……ああ、うん。街にきたのは今日が初めてさ」
幼く見える顔にそぐわず咥え煙草にニヒルな微笑はそのままに、腰に下げた黒革の鞘に右手をかけるより早く、舞うように柔らかな男の右手がその手を取った。
「な、俺らと遊ばねぇ?」
「へ…っ?」
遊ぶ、遊ばない。その選択肢がわからない。陽の下でにっかり笑った人懐っこいその存在に、目を奪われる。白い肌に並んだ凛々しい眉に釣り加減の大きな目。背のわりに細身の体で、でも少し肩は広い。――違う。そんな小さなパーツの問題ではない。一体なんだろう?
珍しいからだ、とだけ瞬きをひとつ。歳の変わらぬ者と話す機会など十年近くなかったことで、そもそもここは初めての土地。
「俺っちたいして持ってねぇけど?」
ジーンズのポケットを裏返すその前に、
「奢りおごり!」
懐こい笑顔が再び光る。
「…んー、じゃ、どっか楽しいトコ案内頼むさ」
笑い返せば、任せとけ! また笑って胸を張る無邪気な八重歯が覗いていた。
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