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始まりと終わり/本書冒頭、天化独白そらの匂いがした。
緑の匂いも風の匂いも、俺っちの想像してたあの世みてーなのとは全然違って、なんもない景色のまんまんなか──ただ、そらの匂いがした。
「終わったさ……」
俺っちも、殷も、紂王も。さっきまでつぇー痛みが刺さってた胸は、呆気ないくらいに痛みが引いて、
「ありゃま、止まってる」
血なんか一滴も出やしねぇ。なんか俺っち、結構勿体ねぇことしてたんかも。ずーっと流しっぱなしだったかんね! なんて笑おうと思ったら、横にもうあーたがいねぇんだって気ぃついた。あちゃーぁ、そりゃそうさ。あんたにまで死なれちゃスースだってひっくり返るっしょ! なんて、なんて……
「そっか……そうさ」
帰ってこねーどなり声や笑い声が、変な心地の場所だった。たったひとり俺っちの言葉がこだまして、青空は高い。
俺っちは手を伸ばす。煙草まだあったっけ? うん、ああ、あるある。
「ふぃー…!」
捨ててからずっと我慢してた一本が、ちゃんといつものケツポケットに収まってたのもビックリさ。落ちないでいてくれたんか、お前。なんせここくる前に、力一杯、俺っちは生まれて初めて空を飛んだ。上手くなんか飛べっこなくて、ぐるぐる回りながら誰もいない豊邑を見て、いつか王サマが逃げてった道を見っけた。そらの上から。猫道、近道、路地裏でキスした秘密の場所に、酒屋に歓楽街。豆屋に花屋、茶店。
だからもう、一箱はどっかに落っこちて消えちまってて、コイツが最後の一本さ。唇に咥えて火を打ったら、──ったく、煙こっちにやんじゃねーぇぞっ!──ふざけてるときの、誰かの声が聞こえた気がした。
ああ、そっか。
そうだったさ、これが、これが死なんだな。