これは、決して今日がバレンタインデーだからというわけではない。いや、バレンタインデーだからなのだが。そういうわけではなく、ついでなのであって。自分を兄のように慕ってくれるかわいい妹に手伝ってと言われたからであって。そのついでに出来たようなものであって。決して、決してバレンタインデーだからというわけではない。


「わかった!?」
「……おう」


人気のなくなった部室でそんなグダグダと長ったらしい理由を力説され、狩屋から剣城に押し付けられるように渡されたものは可愛らしいラッピングが施されたチョコレートだ。


「あー…ありがとな」
「…5倍にして返せよ」
「…考えとく」


頬を赤く染め話しかけてきた時は何事かと思ったが多分今は自分も同じようになっているのだろうな、と剣城は小さく頬を掻いた。

なんとなく居た堪れなくなった二人はそわそわするも、お互いにかける言葉が見つからないのかしばし無言だった。
その沈黙を破ったのは剣城でも狩屋でもなく、部室に入ってきた第三者、


「あれ、お前らまだ残ってたのか?」


円堂だった。

その声に二人はびくりと肩を揺らし、反射的に狩屋は顔を背け剣城は円堂の方を振り返った。それがいけなかった。

きょとんとしていた円堂の視界に剣城の手の中にあるものが映る。はっとして剣城は自分の背中にそれを隠すが遅かった。
円堂はにやにやと笑いながら言った。


「なんだ剣城、例の本命から貰えたのか?」


円堂の言葉に剣城はギョッとする。何故それを知っているのか、と。
狩屋はわけがわからないと眉を寄せる。
そんな二人にお構い無しに円堂は続けた。


「見てたぞ、かわいい女子からのチョコレートを本命からのしか受け取らないって断ってたの」


一瞬、ほんの僅かな瞬間、空気が固まった。
剣城は持っていたチョコレートを鞄に突っ込むとよかったじゃないか!と笑う円堂に「お疲れ様です!」と半ば叫ぶように足速に帰っていった。
円堂はそんなに恥ずかしがらなくても、とクツクツ喉を鳴らしながら剣城を見送る。


「かり…え、狩屋!?どうした!?おい、狩屋!大丈夫か!?」


そして円堂が一人残った狩屋に声をかけようと振り返ると、狩屋は両手で顔を覆いその場でうずくまっていた。





Happy Valentine!


130214

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テーマ「人外ファンタジー」
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