稲妻総合病院のある一室にて。
入院患者用のベッドの近くに置いてある椅子に座りベッドで上体を起こしている青年に話しかける少年、剣城京介。その本人すら気付いていないだろう嬉しそうな声色と緩んでいる口元に微笑みながら話に相槌を打つのは京介の兄、優一。


「それで狩屋が…」


口には出さなかったが優一が怪我をしたのは自分のせいだと京介はずっと思いこんでいた。そのことに優一が気付かないはずもなく、学校の話など一切しなかった京介が部活や友人の話をしたり撮ったプリクラを見せてくれたりと目に見えて変わっていく京介に優一は感涙する勢いだった。


「…って兄さん、聞いてる?」
「聞いてるよ、」


いつだっただろうか、京介は松風が言っても聞かないんだと溜め息を吐いていたが一度だけ優一のもとに四人を連れて来たことがあった。四人とはもちろん松風、西園、狩屋、影山のこと。面識があった松風と元気な西園、影山は少し恥ずかしそうにしていたが三人は優一に積極的に話しかけていた。狩屋は三人から一歩引いた京介の隣に立ち、人見知りしていたらしくニヤニヤと笑う京介にからかわれて顔を赤くしていた。
優一はそんな様子を思い出し、くすりと笑って続けた。


「京介の大好きな狩屋くんの話だろ?」


所変わって、お日さま園。
何故か施設出身で仕事に追われて忙しいはずのヒロトが居座り、笑顔を浮かべ彼の前に座る彼の弟のような存在である狩屋マサキの話を聞いていた。
マサキが施設に来たときにはヒロトはすでに成人しており、仕事に追われ施設に顔を出す時間があまりなかった。初めて会った時は話しかけようとしたら走って逃げられ、何度か顔を出してやっと会話が成立するようになったのだ。そのころに比べて随分と懐いてくれたものだ、とヒロトは微笑んだ。


「それで剣城くんがね」


ヒロトが最近施設に顔を出すとマサキは決まって部活の話をした。試合の結果や練習メニュー、松風の無茶振りや円堂のことを生き生きと話すマサキに、ヒロトは笑顔で相槌を打つ。


「…円堂監督の話以外テキトーに流してない?」
「ちゃんと聞いてるって、」


ヒロトはマサキが話してくれることの中でもよく耳にする名前を思い出す。今日施設に来たとき真っ先に見せてくれたプリクラのことも。ヒロトはニッコリ笑って続けた。


「マサキの大好きな剣城くんの話だろ?」


それは同時刻、別々の場所で。
兄の発言に固まった京介とマサキはわなわなと口元を引き攣らせ、なんでと吃りながら呟く。かああっと二人の顔に熱が勢いよく集まっている。
その様子を見た優一とヒロトは重症だなあと苦笑いを浮かべた。






だって兄ちゃんですから


120814

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テーマ「人外ファンタジー」
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