手を繋ぎました


ばさりと狩屋の持っていた荷物が床に散らばった。


「おしいっ転ばなかったか」
「次、俺な!」


そんな会話をしながら荷物を拾うためにしゃがんだ狩屋を見下す男子生徒たち。ちらっと彼らの様子を伺った狩屋はその顔に見覚えがあった。


「(剣城くんのクラスメイト…)」


彼らは狩屋が剣城に教科書を借りに行ったとき根も葉も無い忠告をしてくれた剣城のクラスメイトであった。


狩屋が移動教室中に荷物を落としたのは、見ての通り彼らに足をかけられたからだ。持ち前の柔軟さで転倒することはなかったが、廊下に持っていた教科書やら筆箱をぶちまけたせいでずいぶんと注目を集めてしまった。


狩屋と一緒にいた松風や西園が男子生徒たちに突っ掛かるが、狩屋が止めた。苛立ちがなかったわけではない。ただ原因は自分にあると冷静に判断したからだ。嘘やイメージとはいえ、あの時の忠告は男子生徒たちが狩屋を思ってしたことであって悪気はなかったのだから。


「おい」


止める狩屋に松風と西園は渋ったが、お構いなしに男子生徒は狩屋を見下しゲラゲラと下品に笑っていた時だ。狩屋の後ろからドスの利いた声が響いた。


「今、何をした?」


事に偶然居合わせた剣城だった。
剣城の声を聞いてまずいと思ったらしい男子生徒は一目散に逃げ出した。声を張り上げ彼らを追いかけるために剣城が走り出した瞬間、狩屋が剣城の腕を掴んで止めた。


「…離せ」
「いいから」
「良くない!」


足の怪我でサッカーができなくなった兄を持つからこそ、剣城はあの男子生徒たちが許せなかった。微かに震える剣城の手に気が付いた狩屋はその手を握って松風たちに向き直る。


「次サボるからごまかしといて」


唐突な発言に反応が遅れている松風に荷物を押し付け、狩屋は手を握られたことに固まっていた剣城の手を引き走った。


「狩屋、おい!」
「もーなに?さっきからうるさいな」


人気のないサッカー棟を歩く剣城と狩屋。始業チャイムは既に鳴り終わっている。


「……手」
「震えてるじゃん」
「ちが、…寒いんだ」
「真夏だけどねえ」


笑った狩屋の頬はほんのりと朱色に染まっている。それを直視した剣城の顔にはさらに熱が集まった。


「怒ってくれてありがとう」


狩屋はそう呟いて繋がれている手に力をいれた。ぽつりと呟いたそれはずいぶん小声だったが、二人しかいないこの空間には十分だった。剣城はそれに答えるように握り返した。


「剣城くん体温高いね」
「…狩屋は冷たいな」
「手が冷たい人って心があったかいんだよ」
「自分で言うのか」


あははと笑う狩屋とまだ繋がれた手に気恥ずかしさを感じる剣城。


どちらのものかわからない脈が、尋常ではない速さで打っているのを手で感じられる。ごまかすようにぎゅうっと手に力をこめたタイミングが重なり、剣城と狩屋は顔を見合わせ笑い合った。






それはそれは青くさい青春






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -