抱きしめられました
(sideK)
結局、お泊り会当日。
サッカーしたりゲームしたり、なんやかんやでもう23時だ。天馬くんたちはまだ遊び足りないと言っていたが秋さんに注意されて寝る準備をしている。
俺がトイレから天馬くんの部屋にもどると何故か全員が固まっていた。何だろうと思ってしばらくそれを眺めていると、理由が分かって俺も固まった。
床に敷かれた布団が、2つ。
「まじ…?」
天馬くんのベッドを合わせても3つ。最低でも4人は誰かといっしょに寝なければならない。俺の呟きが聞こえたらしい天馬くんに笑顔で迎えられた。
「どうすんのこれ」
「どうしよう」
どうしよう、と言いながらも表情はそんなに困ってない。信助くんと輝くんも、まさかの剣城くんも。え、ちょっと待って。
「天馬の部屋なんだから天馬はいつも通りベッドで寝なよ」
「いいの?」
「家主だし」
「家主は秋姉だけど、じゃあ遠慮なく」
ごめんねーと軽いノリでベッドにダイブした天馬くん。信助くんの家主発言に何も言えない俺はさらに絶望した。
ちょっと待て、つまり、この流れは。
「輝、いっしょに寝よー」
「うん!」
で す よ ね !
絶対そうだと思ったよ!え、待って、俺は剣城くんと寝るの?同じ布団で?何で剣城くん普通なの?何で布団捲って早くこいとか言ってんの?浜野先輩に言われたこと忘れたの?ねえ?
「狩屋、電気ー」
「……ああ、うん」
天馬くんの言葉に諦めて電気を消し大人しく剣城くんの横に寝転がる。うん、まあ、男同士だしね、うん。俺はおやすみを言って剣城くんに背を向け目を閉じた。
寝られたら、どんなに幸せだろうか。
お日さま園で毎日21時には寝さされているが、慣れない家で寝られるはずもなく俺の目は冴えきっていた。聞こえるのは時計が時間を刻む音とみんなの寝息。だんだん暗闇に目が慣れ、時計を見れば1時すぎ。俺は溜め息を吐いて寝返りをうつ。思い切り目が合った。
「なんで起きてるの…」
「こっちの台詞だ」
剣城くんが起きてた。
上体を起こして周りを確認すれば他の3人はぐっすり寝ていた。うわあ最悪。
「寝れないのか」
「慣れない部屋だからね。トイレ?」
「…いや、似たようなもんだ」
ふうんと適当に返して体を布団に預ける。俺は早く寝れるといいねーとまた剣城くんに背を向けた。目を閉じたところで寝られないだろうけど。
「狩屋」
名前を呼ばれると同時に肩を引っ張られる。驚く間も無く何かに鼻をぶつけた。その時鼻を掠めた匂い。あ、これ、抱きしめられてる、かな、多分。
「寝れない時は心臓の音と人の体温、らしい」
ぎゅうっと頭に回された手に抱き寄せられ、もう片手で背中を軽く叩かれた後、頭上からそんな言葉が降ってきた。頭がぼんやりとしてきて自然に瞼が下りる。
「兄さんが言ってた」
「はは、ぶらこん……」
そこで俺の意識は途切れた。
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