デートしました


「重い……」


買い物を頼まれた狩屋は、量が多いから着いていこうかと言った瞳子の提案を断ったことを思い出す。なんで断ったんだ俺、と。
三つの袋に入ったものを睨みつけながら必死に園までの道を辿る狩屋。せめて自転車で行けよ俺、と後悔しながら。


自分が悪いことは頭でしっかり理解しているが、素直になれない狩屋は「なんでそんなに重いんだよお前剥くぞ」と理不尽で意味のわからない文句を何故かレタスに向かって言い放つ。


運ぶことに必死になりすぎていて周りをあまり見ていなかった狩屋は、真横にいた人物に気付かず軽くぶつかってしまう。
謝るために狩屋が顔をあげれば見慣れた顔。


「剣城くんだ」
「…おう」
「休みの日に会うの珍しいね」
「そうだな」


ぶっちゃけ狩屋は謝ってすぐその場を立ち去りたかった。重い。すごく重い。手がひきちぎれそうな勢いだ。そう思いながらも顔には出さずに言葉を発する狩屋。
知り合いだとわかってしまった今失礼な態度はとれない、と常識はある狩屋。まだ天馬くんや先輩たちじゃなくてよかった、剣城くんならちょっと喋るだけでいい。がんばれ俺。狩屋はそう考えながら腕に力を込めた。


その瞬間、狩屋は袋が軽くなるのを感じた。


実際には袋が軽くなったのではなく剣城が一つ持ったからなのだが、必死だった狩屋がそれに気付くのは少し後だった。


「…重いな」
「は?」
「レタスか?」
「え、あっちょ、剣城くん?」
「もう一つ貸せ」
「え、いやいやいいよ!俺持てるから」


そう言って剣城が持つ袋に手を伸ばす狩屋。そんな狩屋を見て剣城は眉間に皺を寄せた。


「(前から思ってたが…)」


狩屋は人を頼らない。いや、頼ることを知らないんだ。剣城は思った。


剣城は伸びてきた狩屋の手を避け隙を見てもう一つ袋を奪った。


「ちょ、重いでしよっ」
「いいから」
「よくない返して」


返せと頑なに言い続ける狩屋に剣城は悩む。頼れと言ったところで狩屋が素直に受け入れるはずがないことを剣城は知っている。


「…俺とお前が歩いてると男と女に見えるらしい」
「はあ!?」
「だから俺が女に荷物を持たせてると思われたくないだけだ」
「ふざけんな俺は男だ!誰だよんなこと言ったの!」
「……、三国先輩」
「…………」


勿論これは剣城の嘘なのだが、狩屋も自分の顔や体格が剣城に比べて女っぽいことは自覚しているし何より三国に言われたなんて聞けば押し黙るしかなかった。


「じゃあこれデートに見えるのかな」
「かもな」
「剣城くんがデートとか想像できない」
「今してるだろ」
「え?」
「は?」


動いていた足が同時に止まりお互い顔を見合わせる。
なんとなく気恥ずかしくなって顔を同時に背け、また歩き始めた。


「「(そういえば……)」」


ちらりとお互いにお互いを見る。目は会わなかった。


「「(私服、初めて見たけど)」」


「(だせえ)」「(かっこいい)」


ふっと笑った剣城と、むっと拗ねた狩屋。
お互い新しい面を知ったとある休日の午後4時。


「なんか楽そうに持つね」
「そうでもない」
「なに、彼女の前ではかっこつけたいタイプ?」
「素でいられるやつがいい」
「ああ、俺に対してみたいな?」
「そうだな、お前みたいな…………」
「…………、飴食う?」
「…食う」









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