一緒に帰りました
部活終りの部室、部員たちが談笑しながら着替えていた時だ。
これは隣同士で着替える時によく起こることだろう。狩屋が剣城にぶつかってしまったのだ。
二人の「あ、ごめん」「いや」というやり取りを偶然見ていた霧野が言った。
「狩屋と剣城って仲良いのかどうかわからない」
「俺も思った」
霧野の発言に乗ったのは倉間。他のメンバーも話には加わらないものの、全員が思っていることだろう。
「例えば天馬と狩屋、天馬と剣城ってのならわかるけど」
「剣城と狩屋って珍しい組み合わせだよな」
「仲良いところが想像できない」
「二人とも捻くれてるしな」
仲良く二人で遊んだりしてたら笑えるよな、気持ち悪くて。などとげらげらと笑いながらずばずばと言い続ける霧野と倉間。
どうでも言いのだが、本人たちの前でそれを言うか。剣城と狩屋は思った。
「実際どうなんだ?」
そう霧野に振られた剣城と狩屋は顔を見合わせた。
実際のところ先ほど霧野が言ったように、仲の良さで言えばお互い松風たちとのほうが良いのだ。
だが、決して仲が悪いわけでもない。
普通に話すし廊下ですれ違えば挨拶もする。この間のように教科書を借りることもある。偶然会えば一緒に昼ご飯を食べることだってある。
キスもした。
「狩屋」「剣城」
「「顔赤くないか?」」
霧野が狩屋を、倉間が剣城の顔を見て言った。
言われて更に意識してしまった剣城と狩屋は悟られないように顔を反らした。
心配そうに覗き込んでくる霧野に狩屋は「暑いんですよ」と離れるように言った。
同じく覗き込もうとした倉間は身長が足りず苛立ち、「てめえ後輩のくせに調子乗んなよ」と意味のわからない言い掛かりをつけていた。
「で?」
「あー…べつに悪くは」
「…ない、よね?」
「………多分」
曖昧に答える剣城と狩屋に霧野と倉間は興味が失せたのか、ふうんと二人揃って適当に返した。
「じゃあ一緒に帰ったりしてるの?」
完全に興味を無くし自身の着替えに戻った霧野たちに変わって質問するのは松風。
その質問に対しての答えは言わずもがなノーである。
それを聞いた松風はキョトンとした顔でこう言った。
「それって仲良いの?」
剣城と狩屋は暫しの無言の後、口を揃えて「…さあ?」と言った。
仲が良いか悪いか、それ以外のことに関しても基準など人それぞれである。
結局、本人たちにもわからないのだ。
ましてや剣城と狩屋の場合は尚更である。
お互い捻くれ人付き合いはあまり得意ではない。
そんな二人が恋人紛いな行為などしてしまえば。
「狩屋」
「あーうん、一緒に帰ってみる?」
しかし剣城と狩屋にはこれが丁度良いのかもしれない。
この人一人分開いた距離が。
「俺たちって結局友達なの?」
「……さあ?」
今はまだそれが心地好いのだから、まあいいか。
人一人分の距離を開け、二人は並んで帰路についた。
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