06
「痛いッ!」
「あ、現実か。」
目の前にいる人物が信じられなくて、むしろルキアのことも含め全ての事が夢であればという願望を込めて、俺は思い切りその顔面を殴った。
「他にも方法あるじゃないすか…」
「悪い、普通に殴りたかった。」
「何でっすか!?」
涙目で頬をさする目の前の男、浦原喜助。人を殴ったりすることのない右手の痛みが、彼の存在を俺にしっかりと伝える。
「雅さん?」
キョトンとした顔で喜助が俺に近寄る。俯いた俺の顔を大丈夫すか?と覗き込んで目を見開いた後、ふっと笑った。
「泣きますか?」
「泣かねえよ。」
「そうですか。」
「…うん、」
よかった、よかった。俺は何度も繰り返す。はい、はい。全てにそう相槌を打つ喜助の頭をガシガシと思い切り撫でた。
「びっくりしましたよーまさか雅さんが現世にくるなんて。任務ですか?」
「いや、勝手に来た。」
「はい?」
「サボりになるのかな?いや、脱走か?」
悪びれもなく告げれば喜助の口角がヒクヒクと引き攣る。大丈夫なんすか?と心配そうに尋ねてくる喜助に笑いながらまあ大丈夫ではないだろうけどと告げ、一拍置いて喜助に向き直った。
「ルキアがもっと大丈夫じゃないの、知ってるだろ。」
一瞬だけ鋭くなった喜助の視線はすぐに誤魔化すように伏せられた。俺の嫌な予感は昔から当たるのだ。