03
すっかり通い慣れた道を進む。といってもここ数年、堂々と正面から入ったことはない。いつも通り隊舎の裏に回り、窓を軽く叩く。そんなことしなくても霊圧で気づいているだろうが、一応礼儀としてだ。その音に振り返った人物の穏やかな表情に少しだけ気が楽になった。
「そろそろ来る頃だと思っていましたよ、雅さん。」
「こんにちは、卯ノ花隊長。」
人生相談に来ました、と伝えればクスリと笑われてしまった。
「ご友人だそうですね。」
「……大丈夫ですよね?」
「さあ、どうでしょう。」
さあって…と小さく漏らせば大袈裟に溜め息を吐かれた。
「私に何と言ってほしいのですか?」
「卯ノ花隊長って俺に対して無駄に冷たいですよね。」
「愛のムチですよ。」
「目が笑ってないんですけど」
「行けばいいじゃないですか。」
現世へ、と卯ノ花隊長は続けた。
「え、」
「気になるのでしょう?」
「…いや、でも」
「餞別です。」
そう言うと卯ノ花隊長は俺から離れ、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
そして卯ノ花隊長の行動の意味がわからず頭に疑問符を浮かべる俺の顔面へそれを容赦なく叩きつけた。
「ぶっ」
「私は、今の貴方より昔の貴方の方が好きですよ。」
卯ノ花隊長はニッコリとそれだけ言い放つと窓を閉めて仕事に戻って行った。
渡された紙には文字の羅列。これは座標だ。おそらくルキアの任務先の。
「…アメが痛い。」
俺も、昔の俺の方が好きだよ。
右手で力一杯紙を握りしめた。