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いつも通りに八番隊舎裏の大きな桜の木の下で寝こける友人を叩き起こす。何だお前かとでも言うような視線を受け流し、先程耳にした話を述べた。


「日番谷隊長に絞られたらしいな。」
「まーな。」


先日、唐突に姿を消したこの男は、現世で何やら仕出かしたらしい。雅が尸魂界に戻ってきた事を教えてくれたのは、うちの隊舎にふらりと現れた乱菊さんだった。乱菊さんは話が進まないと追い出されたらしく「追い出されたから仕方がないのであって、これは決してサボりではない。」とご機嫌な様子で甘味処の方へ消えていった。それはサボりである。俺はそんな彼女を苦笑いで見送った後、仕事を一段落させて雅がいるであろうこの場所に向かったのだ。


「お前、現世行ってたんだって?」
「おう。」
「何しに?」


欠伸を一つした雅は俺の問いに少し悩んだ後、口元で人差し指を立てた。内緒ってか?お前がやっても可愛くねえよ、と茶化す。すると、いつも通りの軽口が返ってくる、はずだった。


「修兵の大切なものって何?」


何故そんな事を、そんな顔で聞くんだ。


「…何だよ、急に。」
「命でも地位でも金でも、友人、仲間、憧れの人、なんでもいいよ。」
「はあ?」


こいつどうした、熱でもあるのか。現世で本当に何してたんだよ。訳が分からないまま雅が順に述べた言葉を頭の片隅で思い返せば、色んなモノが浮かぶ。


「これから何かが起こる。」
「…は?お前本当に大丈夫か?」
「きっと誰かが何かを失う事になるよ。」


終わってからじゃ遅いんだ。そう言った雅は、そっと桜の木の幹を撫でた。彼の背中が小さく見えたのは、何故だろうか。


「…守れよ、大切なもの。」


その言葉が、やけに耳に残った。

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テーマ「人外ファンタジー」
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