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琴吹雅は水面下で有名だった。
その理由は彼の交友関係と技量、そしてそれとの矛盾にある。


琴吹雅は最年少で隊長になった天才である自隊の隊長、日番谷冬獅郎に物怖じせず堂々と仕事をサボり、その態度が気に入られたのか副隊長である松本乱菊と仲が良い。そして瀞霊廷内で度々見かけられるのは、霊術院時代から卒業と同時に席官入りが噂され名が知られていた現九番隊副隊長の檜佐木修兵とのツーショットだ。その檜佐木とはお互いに砕けた口調で喋り、名前で呼び合う程の仲。
仕事もサボっている割にいつの間にかきちんとこなされていて、非戦闘員を名乗りながらも元四番隊員として戦場に呼ばれることもある。


実際に、阿散井恋次もその姿を知っていた。
まだ死神になる前、霊術院時代の話だ。現世での魂葬実習で自分達を襲ったあの事件。後から聞いたのだが、自分達を庇って怪我をした引率だった檜佐木達の手当てをした男が琴吹だそうだ。感謝しているのだと語った檜佐木に、阿散井もその男を気に留めていた。
しかし、結局のところその男はただの平隊員でしかない。彼をよく知らない阿散井にとっては、それが全てだった。


だからこそ、阿散井は驚愕したのだ。
何故、ここにいるのかと。何故、朽木ルキアから力を奪った人間を庇うのかと。何故、自身も見えなかった朽木白哉の攻撃をこの男が防いでいるのかと。


「お前…!」
「雅…!」
「…ドーモ、お久しぶりです。」


居心地の悪そうに言ったその男に、朽木白哉は少なからず動揺した。と言ってもそれは一瞬の事で、すぐに次の行動に出た。ガシリと琴吹の腕を掴んだのだ。それに驚いたのはその場にいた全員、つまり本人の朽木白哉もだ。本能的にそうしてしまったのだと、彼の瞳を見て琴吹は気付いた。


「…帰還命令が出ている。」
「……了解。」


罪人・朽木ルキアを連れて現世から瀞霊廷に戻るまでの間、琴吹が口を開くことはなかった。

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