■家に帰ると母が武将を4
「ねえ、この人も追加。私の部屋にいた。風魔小太郎だって」
母にそう伝えるとリビングにいた全員が一斉にこちらを見た。
「風魔!?」
「あら、もう一人いたのねー」
声を上げ驚いていたのは猿飛佐助。何か言いたそうにしているけど風魔小太郎は総無視で私の後ろに立っている。そして母よ、あらじゃない。何でそんなに嬉しそうなの。
「じゃあ、そういうことで」
あとはもう知らん。彼らを拾ったのは母だ。
踵を返すと風魔小太郎が立ちふさがった。あれ、デジャヴ。
「どいてください」
「(ふるふる)」
「…………」
「(ふるふる)」
「…………」
「(ふるふる)」
なんなの。ほんとなんなの。
「…もー、わかりましたよ」
溜め息をついて大人しくリビングの端の方に座ると風魔小太郎も少し間を空け座った。抱えていた○は膝の上へ、みーちゃんは私の横へ、ゴンは懐いたのか風魔小太郎の周りをうろうろしている。
「で?」
「え?」
「…どうしてこうなったの」
やはり何故か嬉しそうな母に向き直り聞くとキョトン顔を返された。
「わかんない!」
「…はあ?」
「買い物から帰ってきたら彼らがいたの」
「ごめんやっぱ無理意味わかんない部屋帰る」
私が立ち上がろうとすると左右にブンブン首を振る風魔小太郎と笑顔の母に止められた。
「…あの、」
「あ?」
「いえなんでもございませんすいません」
こっっっっっっわ!二人では話にならないと1番近くにいて1番年上そうな片倉小十郎に話しかけると地を這うような低い声と元々の恐面がさらに増す睨みを返された。あああ怖い怖い怖い!やっぱり話かけるんじゃなかった。
だってどうしろって言うんだ、私に。ただの一般人が戦国武将の重圧に耐えられると思っているのか。しかもタイムスリップしたと言う意味の分からない状況で。頼れそうな人もいなくて。もう一度言う、どうしろってんだ。
「あー…嬢ちゃんよ」
「…はい?」
「この状況について説明してくれねえか?」
難しい表情で話かけてきたのは長宗我部元親。この人はまだ取っ付きやすそうだ。いや、怖いけど。でかいし銀髪だし眼帯だしマッチョだしほぼ半裸だし超怖いけど。
「…私もあまりわかってはいませんが、」
それでもよければ、という言葉は遮られた。
「あんたらが攫ったんじゃないの」
ギロリとこちらを睨む猿飛佐助。この時私は察した、この人絶対めんどくさい。
「違います」
「証拠は」
「では私たちが攫ったという証拠は」
「質問してるのはこっちなんだけど」
ほらやっぱり。
「まあまあ佐助くん、落ち着いて?」
「あんたは黙っててくれる?殺すよ」
やりおったわ母が。空気読んでくれ頼むから。あと佐助くんて。
「じゃあ出て行けばいいじゃないですか。止めませんし。そっち玄関なんで」
「それは駄目よ、未来のことなにもわからないんだから。私が保護します」
「さっき殺されかけてたけど」
「大丈夫よー」
「なにが?どこが?状況一番わかってないよね?」
私たちのやり取りに笑える空気ではなく、私の頭痛が増すだけだった。
「おい」
「…はい」
次に話しかけてきたのは毛利元就。知将だっけ。たしか広島あたりの。
彼はしばらく無言で私を見てから口を開いた。
「我の質問に答えよ」
「…条件付きでいいですか?」
「…我に見返りを求めるのか」
そう言えば猿飛佐助がやっぱりあんたらが云々とうるさかったが真田幸村や長宗我部元親が止めてくれているので話を進める。
「見返りというか、私の質問にも答えてもらえますか?こっちも状況わかってませんので説明しろと言われても困りますし」
「よかろう」
「それなら俺も協力するぜ」
「助かります」
どこぞの迷彩柄の誰かとは違って話がわかる。
「どうぞ」
「ここはどこだ」
「日本…日ノ本?の東京です」
「とうきょうなど我は知らぬぞ」
「今の地名ですから。貴方たちはここに来る直前何をされてました?」
「日輪を拝んでいた」
「俺は野郎どもと船にいたな」
にちりん…?なんぞや。あと武将って船乗るっけ?
「安芸へはどうやって帰れる?」
「広島でよければわかりますよ」
「…ひろしま」
「新幹線ならすぐつきます」
「しんかんせん」
「土佐は?」
「高知ですね」
「…こうち」
「新幹線なら岡山で乗り換えですね。飛行機の方がいいんじゃないですかね?よく知りませんけど」
「ひこうき」
「…我がいた時代の安芸よ」
「わかりません」
戦国武将たちの眉間のシワがどんどん増えていく。さっきまで騒いでいた猿飛佐助や静かにこちらを探るように見ていた伊達主従も。ちなみに真田幸村はゴンとじゃれていた。呑気だな。母は完全に私に任せっきりで、上機嫌にお茶を淹れにキッチンへいった。この人たち拾ったのあんたでしょーが。
「こっちにくる寸前は何年…あ、でも太陰暦?天正?なんだっけ」
「暦か?」
「暦は婆娑羅暦ぞ」
「ばさら?」
なにそれ。ばさらなんて暦聞いたことない。
「ちょっと待って下さいね」
私はそう言うとポケットから携帯を取り出した。何人か身構えていたが気にすることなく慣れた動作で指を滑らす。
「…なあ、それ何だ?」
「機械…絡繰り?」
「絡繰りなのか!?」
長宗我部元親が恐る恐るといった様子で訪ねてきたかと思えば、私の言葉を聞いて突然目を輝かせながら近づいてきた。え、なに。こわ。てか近。
ばさら暦とやらを検索してみるが結果はやはり0件。次に日本の暦一覧を検索して何度も読み返すが、ばさらと書かれている所はない。
「な、なあ!ちょっとそれ弄らせてくれよ!」
「駄目です」
「じゃあ分解」
「もっと駄目です」
キラキラと目を輝かせて尋ねてきた長宗我部元親。少年か。分解てそんな目を輝かせて言うものじゃないと思う。
「この絡繰は携帯電話といって、えーと、こちらでは一般的なもので、遠くにいる人と会話ができたり、調べものができたり?するんですが、今ばさら暦?を調べてみましたが存在しませんでした」
「なあ分解」
「駄目です」
オチを見失ったのでここで放置。おもいついたら書きます。