まぁ、良しとするか

ジャージから制服に着替え、花宮が戻って来るのを待つ。
「オイ コラ 瀬戸!起きろ!!起きてさっさと着替えろ!花宮に怒られんのはお前だけじゃねーんだぞ!」
ザキが瀬戸を叩いてるけど意味ないっしょ。だってアイツ花宮の声じゃねーと起きねーし。あ、あと千夜が指の関節パキパキ鳴らす音。
千夜はラフプレーの指導と言うか、人体の脆いとこや、自分にダメージ喰らわない受身、攻撃法を実戦で教えてくれる。オレ、ガチで千夜とやって勝てるかわかんない。前 七人の男の内四人をあっという間にズタボロにした後の現場に居合わせたし。あの時録画したのは消去した事にしてるけど実は残してる。だって千夜パンツはいてないんだぜ?二日連続同じ下着つけたくないからってノーパンであんな動きやってのけるとかスゴすぎっしょ?あ、別に膝下スカートのせいで中は写ってないけどさ。あのスカート、も 少し短くしないかなぁ?千夜は学校では清楚系優等生演じてるけど 後 二、三センチ短くていいと思う。折角足 綺麗で細いのに。と...話が逸れてしまった。
瀬戸が起きる理由は、千夜が練習せず 寝続けている瀬戸に近づき、指を鳴らしてからモーレツに痛いマッサージをしたからだ。体から響くゴキ、ボキと言う鈍い音と瀬戸の叫び声に鳥肌が立ったのはオレだけじゃないはず。瀬戸の泣き顔も古橋が顔を引きつらせたのも初めて見たし、ザキなんて血の気引いて真っ青だった。マッサージ後、瀬戸は
「体は凄く楽になったし、眠気も引いた。だけどあのマッサージはもう受けたくない。」
ときっぱり言ってた。あれから千夜が指を鳴らしながら近づくと逃げるように飛び起きるようになった。

「今日の晩御飯何がいい?」
「何でも。」
「何でもって言うのが一番困るんだよなぁ。」
「なら肉じゃが。着替えて鍵返すまで待ってろよ。」
「肉じゃがか....夕飯の材料買いに行かなきゃなんないし、スーパー寄るから先帰る。」
「荷物持ちするから待ってろ。」
「いいよ。疲れてるでしょ。私の家で待ってて。」
「あのなー お前また攫われたらどうすんだよ。」
「あの時は油断してただけで。」
「黙れ。とにかく一緒に帰んぞ。校門前で待ってろ。」
「はーい。」
一緒に帰って、一緒に買い物して、千夜の家で千夜の手料理食べんの?付き合ってるみたいじゃん。あ、付き合ってんのか。プクーっとガムを膨らますと顔を綻ばせた花宮が入って来た。不機嫌顔と大差ないけどね。わかんのは二年レギュラーだけじゃないかな?
「健太郎、さっさと着替えろよ。鍵閉めれねーだろーが。」
「フガッ....おー。」
起き上がったのを確認した花宮の理不尽な怒りがザキに行く前に話しかける。
「ねー花宮ぁ、さっきの合同合宿の参加申込書ちょーだい。」
「はぁ?何でだよ。」
怪訝そうに振り向く花宮に返す。
「オレ、参加するから。」
「さっきの話、聞いてたか?」
「聞いてたよ。でも千夜を一人で行かせるのには反対。」
「ふはっもしかして千夜が誠凛の雑魚に何かされると思ってる訳か?心配すんなよ。あいつの強さは知ってんだろ?」
あーもう、イライラする。
「千夜は強くないよ。」
オレの冷めた声に視線が集まったけど構いやしない。
「原、お前千夜にほとんど組手負けてんじゃん。」
「千夜と組むたび真っ赤になってニヤニヤしてるザキに言われたくない。」
冷やかしを冷やかしで返す。
「千夜は強くないよ。とっても弱い子だ。弱いのを悟られたくないから あの性格演じて、オレらや周りから距離取って閉じこもってんじゃん。」
「お前、千夜の何を知ってんの?」
「少なくとも“彼氏”の花宮より千夜の事わかってる。」
“彼氏”の部分を強く強く強調する。
「道具としてしか千夜を見てないくせに。」
「そんなこと「あるね。否定はさせない。情報収集の道具。ご飯作ってくれる道具。そんで性慾処理の道具でしょ!?」
バキッと頬から鈍い音がした。目の前を星が飛ぶ。
「ってぇな。何すんだよっ。」
殴り返そうとしたら背後から
「原。さっきのは言い過ぎだ。」
と古橋が無表情でオレを抱え込んで止めた。更に殴りかかろうとする花宮を瀬戸が止める。
「離せっ健太郎。あのガムもう一発殴らせろ。」
「いーよ、掛かって来なよ。その細身でオレに勝てると思ってんならさ。」
「お....おい....いきなりどうしたんだよ。ケンカはやめろよな。」
うろたえるザキにガムを吐き出す。
「うっせー黙れ!」
「原、落ち着け。」
さすが千夜がスカウトしただけあって古橋の締め技は固い。ギリギリと締め付けを強くする古橋に告げる。
「お前は途中参加だからしんねーだろうけど、オレら一年ん時その合宿に参加する誠凛の奴らとやり合ったんだよね。そんとき主軸となる選手をぶっ壊したんだわ。ラフプレーで。」
「それがウチのプレイスタイルだろう?報復を恐れているなら千夜さんの賢さと強さがあれば大丈夫だと思うが。むしろ返り討ちにするはずだ。」
「違う!そういう強さじゃなくて!」
「....精神的に....か?」
花宮がポツリと呟く。
「気づいてんじゃん。それなのに全部千夜に押し付けるつもり!?わかってあげてよ。あんなに健気に尽くしてるのにさぁ。」
「千夜はそれを気づかれる事を望んでいない。」
「知らない振りするのは楽だよね。もらうだけもらって、都合のいいように使って....千夜をこんな目にさせるならマネージャーとして連れてこなければ良かった!!!」
ゼーハー と肩で息をする。整う前に瀬戸がオレを真っ直ぐ見て言った。
「原は千夜の事好きなの?」
「逆に聞くけどこの中に千夜の事好きじゃないヤツいんの?」
無言は肯定だよ。古橋の腕が緩んだ隙に腕から抜け出し鞄を持って部室を出た。

校門前に一人立っている千夜を見つけて後ろから抱き着く。
「千夜〜、一緒に帰るよん。」
「あれ?まこちゃん達は?」
「まだ部室。パッパッと買い物済ませて帰んなよ。オレがついてたら攫われる事も無いっしょ?」
「....そうだね。お願いする。」
「任せといて。」
鞄を奪い、千夜のケータイの電源を切る。明日は花宮に物凄く怒られんなー と思いながら空いた手を繋いで歩き出した。


結局合宿は千夜一人が行く事になったけど、出発する前日 花宮が
「何かあったら連絡しろ。」
とか
「指輪は外すな。」
とか メガネ+七三+ひっつめ状態を指して
「合宿中は寝る時以外その恰好でいろ。」などなど、何度も言ってる姿を見れたから、まぁ良しとするか。


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