一目惚れと言う馬鹿げた物

図書室で本を探していたら予鈴が鳴った。図書室は最上階。二年生の自教室は二階にある為、オレは階段をショートカットしようとらせんの数段を飛び降りた。
この階段はあまり使われて無いから誰にもぶつからないと思っていたが、
駆け上って来る女子にぶつかりそうになる。急いで体を捻って彼女を見る。驚いたように大きく見開く潤んだ黒目と視線がからんだ瞬間、心臓が跳ねた。バランスを崩し 階下へ落ちて行く彼女に必死に手を伸ばす。そのまま庇うように抱き締めて 自分が下になるよう落下した。彼女を助けなければ しか頭に無かった。
「あ、ありがとうございます。」
「............すみません。」
足がジンジンと痛むが骨は正常らしい。腕の中で彼女が目を輝かせて見詰めてくる。心臓が狂ったように早鐘を打つのは吊り橋効果だ。恐怖と安堵から来る物だ。甘ったるい物では無い。と自分に言い聞かせる。
「見つけた。」
そう言いながら腕を掴む彼女に、
「....。」
訝しげに視線を向ける。
「バスケ部に入って下さい。」
「?」
経験無いです。と言えば、
「あなたの身体能力が必要なの。後、雰囲気がいい。」
と返された。
「???」
雰囲気がいいとは初めて言われた。きっとこの人も吊り橋効果にかかっているのだろう。真剣な眼差しで見詰められて 元々速かった心音が更に速まる。オレの心臓はどこまで速くなれるんだ?
「急にこんな事頼んでごめんなさい。私バスケ部マネージャーの森下千夜と言います。今 部員を探していて...。」
彼女の勧誘の言葉が耳に入らない。
森下千夜って 確か一学年上のテスト一位の人か?毎回ほぼ満点を取り続けているから 見覚えのあるその名前。それとオレと同学年で常にテスト一位の花宮と言う男と付き合っているとか何とかで有名...え?付き合っている?
「と言う訳で、どうですか?入部してくれません?」
にこり と微笑まれ、情けない事に胸がときめくと言う馬鹿にしていた事を実体験してしまった。でも その笑顔に少しの違和感を感じる。

「...貴女はどこにいる。」
目を見開く彼女。
「え?」
「貴女の本心が聞きたい。そうでなければ入部しません。」
きっと彼女には脅しにもならないだろうが。
ふっと微笑んだ。今までと雰囲気が変わった事にピクリと眉を上げる。
「不満、溜まってない?」
毎日を真面目に生きる事へ。
「一緒にイイコちゃんを潰そうよ。」
貴方を誘ったのは私達のやり方を理解してくれそうだったから。
同族のにおいがしたから。

首を縦に振る。
「ありがとう。貴方の名前は?」
「...二年、古橋康次郎。」

宜しく、古橋君。と握られた手への想いを認めるしか無かった。
吊り橋効果でも何でもない。オレは一目惚れと言う馬鹿げた物に落ちて、そのまま失恋したんだ。


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