私は絶対認めない

「っぐっ…っっ━━━━━━━!!!」
膝を庇い倒れ込む木吉の横を通り過ぎ、ラフプレーを働いた選手の元へ駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
誠凛側から刺さる視線を心地良く感じながら、彼に応急処置を施す。まるでこちらが被害者の様に。
「残り少ない時間ですが、頑張って下さい!」
飛び切りの笑みを誠凛側にも見える角度で作る。 あはっ すごい顔で睨んでやんの。だって悔しいもの。手に入らないなら潰してしまう 子供の思考回路万歳。
木吉の膝に目をやる。一気に失せる血の気。それを周囲に悟られない様 笑顔のままベンチへ戻る。ラフプレーにかなり貢献してから交代したばかりの まだ汗の引いていない原の隣に座る。担架で運ばれ退場する木吉を見ながら、
「あれさー ザマアミロって感じだよね」
と呟く。試合開始のホイッスルにかき消されたと思っていたが 原には届いたみたいだ。木吉の膝から目を離さない 私の前にガムを差し出し、
「息抜きしなよ」
と言う。受け取ろうと伸ばした手のひらには 爪の食い込んだ跡。知らないうちに、強く 握り締めていたようだ。原はそれを見て見ぬふりをしてガムを膨らませた。ガムを口に含む。噛んでも噛んでも味なんてわからない。霞む視界。パンッと原がガムを割った音と試合終了のブザーが重なる。割れた音が花宮の立てた音を繰り返させて、
木吉の膝
花宮の笑顔
木吉の叫び声
花宮の指

頭の中がぐちゃぐちゃだ。
原がメガネを外して拭いてくれた涙は試合に負けた悔しさからだ。絶対に。後悔からではない。決して。
私は絶対認めない。


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