気付か無い振りをした

「こんにちはー。」
部活が始まる前の体育館に足を運べば モップがけ途中の一年生達がこちらを見る。私はバスケ部のこの時間帯が好きだ。二、三年生がいない環境では猫被んなくて良いし。猫被りを辞めてから、警戒心を解いたかの様に一年生達は私に懐き始めた。
「あ〜花宮の彼女さんだー。」
いらっしゃーい と言いながら背中から抱き着いて来たのは原。私をマネージャーに推薦した張本人。
「わかってるならひっつかないでくれる?後、その呼び方止めて。名前で呼ぶのが嫌ならせめてマネージャー(仮)にして。」「だが断る!」
「意味わかんない。」
「彼女さんが花宮の事まこちゃんって呼ぶのはなんで?」
「それは...「花宮の苦虫を噛み潰した様な顔が見たいから。ふわあぁぁ」
欠伸をしながら私の言おうとした事を先読みして来たのは瀬戸。流石花宮のお気に入り。
「オレもそれと一緒。彼女さんの嫌がる顔が見たいだけ。」
悪趣味め。
「お前ら勝手に休むなよ!オレに残り押し付けるつもりか!?」
「そ、頑張れ〜ザキー」
少し可哀相な扱いを受けているのは山崎。この子も花宮のお気に入りである。瀬戸とは違う意味で。 いじられキャラとして...ってとこ。
「て言うか 私はあんたらと絡みに来た訳じゃ無いの。まこちゃんはどこ?」
「うわー“マネージャー”が贔屓してるー。」
「花宮なら一年生代表として監督達と次の試合の話し合いだ。」
ひーき ひーき と耳元でコールする原を無視して あ、そう。と瀬戸に返す。
「花宮!」
山崎が視線を向けた先は生憎 原が邪魔で見えない。と 思っていたら 軽くなる肩。どうやら花宮が原を押し退けた模様。
「俺の“彼女”に気安く触るんじゃねーよ。」
「まこちゃんお帰り。どうだった?」
「疲れた。あの監督には辞めて貰う。言う事聞きやしねーし。後、その呼び方止めろ。」
「わかった 手伝うよ。」
にっこりと微笑んだのは、これから楽しくなりそうな事への期待感であって、偽りでも“彼女”扱いしてもらえて 嬉しかった訳では無い。決して。
「頼まれてた誠凛の情報集めて来たよ。体の綻びを重点的に。」
「助かる。」
「森下はどうしてそんな的確に仕事出来るの?」
「中学時代にバスケ部マネージャーの経験があるから。」
瀬戸の問いに簡潔に答える。それ以上突っ込んで来るなと心の中で念ずる。
「ふーん それでも完璧だよ「主に情報収集と手当て担当だったの。人体の仕組みについては詳しいの。」
話はもう終わりと言う様に被せて返答。普段のやり返しだ。私の過去話聞かせろみたいな雰囲気作るんじゃない。つきりと腹が痛む。
「ラフプレーが売りのチームに人体の仕組みに詳しい治療者がいる。嫌味だろ?」
私を庇うかの様に立つ花宮。そんな優しさは要らないのに。何故、偽りの擬似愛を与えてくれるのだろう。わからない。
考えるのはヤメだ。他人に期待して信用したって意味はない。今は花宮が素直に褒めてくれた事実を堪能しよう。彼がデレる事はほとんどないし、貴重だ。
二、三年生がゾロゾロ体育館に入ってくる。部活開始が近い。髪を引っ詰めにし、前髪をピンで七三に分け、眼鏡をかける。瀬戸ではないが マネージャー業務の時はこの格好じゃないと集中出来ないのだ。
じっと見つめて来る(と言っても目が見えないからわからない)原に 何? と視線を送ると、
「相変わらず その格好もさい。」
と言われた。黙れ。周りの奴も頷いてるんじゃ無い!
そのままの方が可愛いのに と言われた事には気付か無い振りをした。



[ 11/25 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -