ごめん森山





「はーい落ち着いて〜。深呼吸深呼吸ー。

「おおおう。スーハー」
「話せる?」
「はなっななっ話せせせる」
「駄目だね。なまむぎなまごめなまたまご。はい」
「ままむぎ なまおめ まなたまご」
「もう一回」
「なまむぎ まなおめ なまたまごうおぉーぉ!!」
「んぎゃっやばかったぁ」
何度も繰り返したおかげで笠松からの攻撃を避けるスキルが身についた。ぜんぜん嬉しくないけど。私の顔面目掛けて真っ直ぐ伸ばされた腕に苦笑いしながら言う。
「二人っきりはもう限界?」
「....ごめん....」
のそりと立ち上がり自分のベッドに潜り込み、私の視界から消えてしまう笠松。そろりと布団の上からなでてやる。びくりと跳ねたが大きな抵抗はなかった。
「....ごめん」
「大丈夫大丈夫。ちょっと休憩しようか?」
布団越しに何度かなでてから、立ち上がり伸びをする。自由時間を笠松に捧げる日々。“KJN”解散は近づいて――はないけど進歩はした。今や笠松の自宅で笠松の部屋で二人っきりで過ごせている。しかも普通(?)に会話できるようになった。これでバスケ部の練習プリントを手渡しできるし、近くにいる人に伝言を頼む必要もなくなった!成長を喜んでいるとケータイが鳴り響く。
「森山からだ。出るね。」
布団の塊がごそりと動いたのを確認して、通話ボタンを押す。
「もしもし。何か用?」
〈もしもし、森山だけど、“KJN”の調子はどうだ?〉
「今詰んだ所」
〈そうか、じゃ今ヒマなんだな?〉
「ヒマっちゃヒマね」
〈なら今日はそこまでにしてさ、オレとケーキバイキングいかない?ペアの無料券もらったんだ。〉
「なんであんたと二人で行かなきゃなんないの」
〈そこは気にせず♪日頃の感謝の気持ちも込めて。なっ?〉
「....」
〈甘いもの好きなんだろ?〉
「う....」
〈食べ放題だぞ?〉
「あぅ....」
〈オレとしては小堀や笠松とのツーショットよりカワイー知春ちゃんと行く方が嬉しいなー〉
「ん....」
〈でも、知春ちゃんがイヤって言うならしかたな「行く行く行く!!」
〈OK 駅前集合ね〉
「うん。わかった」
毛布の塊と化した笠松に告げる。
「もう笠松無理そうだし、私、森山と遊びに行くね?」
反応無し。
「あれ?笠松寝た?」
そりゃそうだろう。練習も手を抜かず、こんなストレスの溜まる事を続けて疲れてるはずだ。
「帰るね」
そっとつぶやき背を向ける。
歩き出そうとすれば ぐいっと腕を引っ張られ思わず後ろに倒れそうになった。慌てて踏みとどまる。振り返ると笠松が毛布から顔と腕を出し、私を引き止めていた。真っ赤な顔、目は泳いでいる。て言うかそんな顔されたら....
「あああのっあい。あい。ありがと」
照れるよ こっちも。自分も頬が熱いと自覚しながら、なんでも無いような余裕ぶった声を出すように努める。じゃないと 続けられない。
「どういたしまして!今日も一歩全身できたね」
「何....が?」
「手 繋げてるじゃん」
「え?」
「手 繋げてるじゃん」
「....」
あ”この 間とこの顔を私は知ってる。この反応は、また....無自覚か....
さぁ、ご近隣の皆様耳をお塞ぎ下さーい!
「........うあああああ〜〜〜〜!」
「黙れっっ」
笠松の顔面に枕を押し付ける。
取り敢えずパニックに陥ったコイツをなんとかするのが先だ。


ごめん森山、約束はキャンセルで。IHは数日後



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