三歩進んで二歩下がる





「ほぅら 怖くない〜怖くない〜。私は何もしないよー?」
両手を広げ、ゆっくり笠松に近寄る。
「う”うぅぅぅーっっあああ」
あと五歩 あと四歩 あと三歩 あと二歩
「にぎゃあぁああームリィィィ〜 ア!ゴメン!!」
「痛い!!」
笠松は全力で私の手の甲を引っ掻いて逃げ出した。フーフーと手の甲に息を吹きかける。(痛みが無くなるわけではないが気休めに)顔を上げれば、笠松は体育館の隅の方にうずくまって何やら小さな塊と化していた。
「たたた....笠松大丈夫?」
「ワ、ワルイ イタカッタカ?マジデスマナイ デモムリムリムリムリ チカヨッテクンナ チカイチカイチカイ」
「こんなにバスケ部の仲間として過ごして来たのに、縮まらないこの距離が遠い遠い遠い」
呆れるしかない小堀と森山に三年生から声がかかる。
「小堀審判やってくれ。森山は得点板頼む」
全員で目を合わせる。(笠松は私と合わせてくれなかったけど)
「椎名、ここでお前たちを残すのは不安だが 笠松を頼むぞ。」
「知春ちゃんファイト!!笠松もサボるなよ!」
二人残されてしまった。笠松がもぞりとこちらに顔を向ける。ゆでダコみたいな真っ赤な顔に苦笑い。
「ゴメン ホントニゴメン デモ ウワアァミルナムリムリィッ ゴメン」
「....気にしてないよ、別に。こうやって話せるようになっただけ進歩だし。」
片言だけど と言う言葉は飲み込んで笑う。
「ウウウ”....」
さらに赤くなる。ちょっアンタどこまで赤くなるの?不安になって手をのばせば、
「あひゃーーぁぁあっ」
「痛っ」
チョップされた。
「....」
「ア、ゴメ....ン キ、キュウニチカヨッテクルカラ....ゴメン」
冗談抜きで痛いんだけど。
「ゴメンゴメン」
と何度も謝るコイツに少し殺意。謝ってるけど直そうとする努力が見られない。
「もう、やだ」
「エッ?」
「どうしてアンタばっか被害者面するわけ?私だってムリヤリなのに」
「....」
「誰か他の子に頼んでよ」
あんなに拒否されたら傷つくっつーの!!ズキズキ痛むおでこに顔をしかめ、笠松に背を向け歩き出す。
「椎名ーっ!!」
背後から大声が呼ばれ条件反射で振り返る。
バチリ
真っ直ぐな視線に射止められ 体が固まった。
「オオオオオレ ハッ オ、オレ ガンバッ ガンガン ガッ頑張るから、お前となら頑張れるから。椎名じゃないと駄目だから。オレッオレッ」
うわっ男前。笠松ってこんな瞳してたんだ。意外と眉凛々しいな。
「だからだから、オレと頑張ってくれ、頼む。」
「すごいよ笠松!すごい進歩!名前呼んでくれたし、スラスラ話せてるし、何より目 合わせてくれた。」
「え?」
「目 合わせてくれた。」
「....ウワァァアァーッ」
無自覚やったんかいっ!!
目と手を高速で回し、今や体全体赤くなっている笠松に助けを出す事もできず、呆然と見守るしかなかった。

ご乱心の笠松が気絶して その日の部活はそこで中止となってしまいましたとさ。


三歩進んで二歩下がるどころじゃない私たちの距離



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