やっぱり森山は残念止まり





人数分のボトルにスポーツドリンクを作りケースに入れる。運ぼうとしたら 横から伸ばされる手。見上げると小堀がいた。
「手伝うよ」
「いっいいよ小堀、私の仕事なんだし、」
「監督が早く椎名を呼んで来いってさ」
「ん?どうしてだろ?」
「俺達に伝えたいことがあるらしい」
小堀からケースを奪おうとしていた手を止める。
「...それって、笠...松のことかな?」
「だろうな。監督の側にすごく真面目な顔で立ってた。」
「小堀、それ体育館に運ぶの任せていい?」
「いいよ。けど 椎名は?」
「行かない。正式マネージャーでもない私が笠松の退部する場にいる必要ないじゃん。」
「まだそうと決まったわけじゃ「じゃあね」
「椎名!!」
小堀の言葉を最後まで聞かず走り出す。


「はぁ、はぁ...はぁ」
階段を駆け上り、勢いよく屋上の扉を開ける。笠松の叫び声が迷惑にならないよう “KJN”の主な活動場所となった屋上。
「笠松のバカ一...」
こぼれる涙をジャージの裾で何度もぬぐうけれど 止まってくれなくて、 しゃがみ込んで腕に顔を埋め 声を抑えながら泣き続けた。

どれくらいたっただろう。キィー と扉がゆっくり開く音に顔をあげる。涙は止まっていたが、視界が霞んでよく見えない。見えにくい世界の中、周囲の薄暗さに長い間ここにいたと気づく。見回りの人が注意しに来たのだろうか。近寄る影をぼぉっと見つめる。
「知春ちゃん」
「森山か...」
「笠松じゃなくて残念?」
「まさか。見回りの人かと思ったの」
「そうだね、遅いし 早く体育館に戻ろうよ。笠松と監督が話したいことあるって」
「いや、行きたくない。」
「どうして?」
森山が隣に腰を下ろし尋ねた。
「笠松が謝る所なんて見たくない。」
「謝るだろうけど それだけじゃないよ。笠松の晴れ姿見てあげてよ」
「退部するのがめでたいって言うの!?」
森山はきょとんとしてから あはは と笑った。
「な、何 森山の方が笠松と仲間として過ごした時間 長いくせに、 どうして笑えるの!?ひどい、薄情もの!」
じわりと再びにじむ視界。
「あーあー泣かないで」
森山はハンカチを取り出し 涙をぬぐう。睨みつけるけど 後から後から涙はつたう。困ったように笑ってから 森山はおそるおそる私を抱きしめた。ひゅっと息を飲む。
「気分を悪くさせたのなら ごめん。でも知春ちゃん。ものすごい勘違いをしてるよ?」
「勘違い?」
「それは自分で体育館に行って聞かないと」
そっと肩をつかんで体を離し、私の顔をのぞき込む。
「おっ!機嫌が悪いときや泣いてるとき 抱きしめたら女の子は大人しくなるって本当だ」
「は?」
「ネットに書いてたんだ」
「はぁ!?だからあんた 残念なんだよ」
「自分から知春ちゃんに触れるの すっごく緊張したんだからな!」
「何を今更」
「今日が初めてなんだぞ!知春ちゃんにオレから触れたの」
「え?」
今までのことをよくよく思い出す。確かに私から森山に触れる(蹴る)のはあったけれど...
「確かに」
「妄想ではうまく触れられるのに」
「あぁん!?」
「でも意外といけるな。これからはガンガンとスキンシップ取ってくから☆」
「ふざけるな森山!」
「ほら、立って。早く体育館に戻ろう。みんな待ってる。」
森山は立ち上がり、少し迷ってから私に手を差し出した。
「ん、ありがと」
その手を取る。
「うわっすごい手汗!」
「言わないでよ だからすごく緊張したんだってば」
「ホント残念なイケメン」
「イケメンって認めてくれるの!?」
ぎゅっと強く握られた手に
「痛い」
と告げる。
「ごっごめ...」
「まぁ、かっこいいとは思う」
残念だけどと付け足せば、
「知春ちゃんツンデレぐうかわ」
と叫んでから森山はフェンスに何度も頭を打ちつけた。
前言撤回。やっぱり森山は残念止まりだ。

そういえばどうして屋上にいるって解ったの?
運命だから!って言えればいいんだけど
けど?
(だって知春ちゃんはいつも笠松中心だし...)
何て言ったの?聞こえない
“KJN”の活動場所だから!
なるほど...


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