その距離0センチ





「椎名」
「何?」
「二人で話したいことがある」
驚いて笠松を見る。進んで二人になろうとするなんて、珍しい事もあるもんだ。
疲れた皆の背中を見送る。
「今日はお疲れ様」
無言になると目に見えていたので、会話のきっかけになるよう言葉を続けた。
「あぁ....」
「....残...念だったね」
「....あぁ....」
話題が浮かばない。無言は苦しいよ。ふっと笠松の顔を伺って何か伝えようとしている様子に 、彼のテンポに合わせると決めていたなと思い出す。促すように見つめる。
フーっと長く息を吐く
「椎名」
「ん?」
「さっきはありがとう」
「え?」
「オレ、嬉しかった」
「うん。」
「ちょっとやりすぎって、お節介って思ったけど」
「うん。」
「ちょっと....いや、かなり恥ずかしかったけど」
「うん。」
「それでも嬉しかった」
「うん。」
「ありがとう」
「うん。」
「...あり...がと...う」
「笠松」
正面から視線を合わせる。
「我慢するな」
「え?」
「無理しなくていいよ。お節介ついでに聞いてやる」
「椎名、でも」
「あんたどんだけ私に迷惑かけてると思ってんの?ちょっとくらい増えたってぜんぜん大丈夫よ」
胸をドンと叩く。貧相だから結構いい音がした。(あ、自虐)
「椎名」
「うん?」
「オレ...」
じわり
何もかもを真っ直ぐ射竦める瞳に涙の膜がはる。
「勝ちたかった」
「うん。」
「皆と、このメンバーで勝ちたかった」
「そうだね」
「もっとコートにいたかった。」
「笠松」
「勝ちた...かっ...た」
ボロリ
一つこぼれ落ちたのをきっかけに地面に大なシミがポツポツと増える。
「勝ちっうぐったっがっだぁぁ」
「笠...松...」
「あ”ああああああ」
大きく口を開けくしゃくしゃに歪む涙まみれの顔はお世辞にもかっこいいと言えたものではなかった。だけど 誰にもかっこ悪いとは言わせない。
「笠松」
無意識に手を広げ、自然な流れで互いに歩み寄っていた。
「うぅ...椎名...」
バスケ部では小柄に入る笠松でも、私より大きいのは事実で。腕の回りきらない、広い背中を撫でながら、私も我慢の限界が訪れて大きな声を出して一緒に泣いた。


その距離0センチ


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