王子様が姫を守る





これほど時間が進むのが遅いと思った事はなかった。海常が1点リード。予想してたように接戦となった。
「お願いっ皆耐えて....」
集中し過ぎて頭が痛い。
握りすぎて手の平が痛い。
呼吸できなくて胸が痛い。
あと残り数秒。ボールが笠松に渡る。
「っえ?」
一瞬何が起きたのかわからなかった。
笠松の放ったボールが敵の手に収まり、それが敵の点数と変わった。
「笠松....が....パスミス?」
試合終了のブザーが鳴り響く。逆転されてしまった。海常側の応援席からブーイングが響く。三年の先輩たちが涙を流す。全てが笠松に向けられていた。
「か、笠松....」
彼を呼ぶ声は彼を非難する声に消されてしまう。泣き叫びたいのは自分であろう。それでも彼は...固く拳を握りしめ、唇を結び、結果を受け入れるように真っ直ぐ真っ直ぐスコアボードを見つめていた。
容赦無く降り注ぐ非難の声に私は思わず叫んでいた。
「それが全力を賭して戦った選手にかける言葉か!?」
「一番辛いのは彼なんだ!」
「彼が泣かずに自分の過ちを受け入れているのに、あんたたちは彼を否定する言葉しか出せないのか!?」
「知春ちゃんっ」
言い過ぎだよ。やめなよと森山が焦りながら私の手を引く。
「うるさい!!彼の努力も知らないでっ」手を振り払い叫び続ける。
「彼の努力も知らないでっ努力も知らっないっでぇ....」
「椎名」
小堀が優しく肩を包むが、また振り払う。自分でも勢いがなくなっているとわかった。足に力が入らない。崩れるように座り込み、泣いてはいけないと思うのにこぼれ落ちる涙は止まってくれない。小堀がジャージをかけてくれたおかげで少し喧騒が遠のいた気がした。
薄い布の中で私は声を押し殺して泣き続けた。


王子様が姫を守ると誰が決めた?その逆は?


[ 9/15 ]

[*prev] [next#]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -