貴方

風でふわふわと揺れる白い髪に顔が綻ぶ。ああもう。今日も凪斗が愛しい。

「凪斗ー!!」
「来ないでって言ったのに」

一瞬私を見て目を反らすのはいつもの事。

「来ちゃった」
「馬鹿じゃないの」
「馬鹿は馬鹿でも凪斗馬鹿だよ」
「予備学科は黙ってて」
「あはっ嫌だよ」

どんなに冷たい態度でも凪斗の声に表れる安堵の感情に私も安心する。
まだ好きでいてもいいんだって。

「今日もいろいろ作ってきたから食べて」
「毎回毎回鬱陶しいよ」
「昨日食べなかったでしょ?はい どうぞ」
「君なんて嫌いだよ」
「うん。知ってるよ」
「大ッ嫌いだ」

差し出したお弁当を食べずに凪斗は私の横を通り過ぎた。その背中に声掛け。

「凪斗ー!!大好きー!!......うわっ」

突風に顔をなぶられて目をつむる。

「ボクは嫌いだよ」

風に乗って聞こえた小さな声に思わず目を見開いた。小さくなっていく細い背中。誰に対して呟いたか知ってるから 私はこれからも凪斗に 好き を伝えるの。
校舎の影に消えるまで凪斗を見送り続けた。







「ただいま」
「おう」

工場に戻ると左右田クンはお弁当に全く手をつけていなくて、

「食べないの?」
「あー、食いたいけど今いい所で作業中断したくねーんだよな」

ゴチャゴチャと繋がる回線をいじくり回しながら 頬を流れる汗を拭うと その後にくっきりと油がついてしまった。くすりと笑ってハンカチで拭き取ってあげる。きょとんとこちらを見上げる左右田クンに提案をしてみた。

「私が食べさせてあげようか?」
「あ?」
「手を洗いに行くのも時間がもったいないでしょ?私が口に運んであげれば左右田クンは作業したままお弁当が食べれる」
「お前がいいなら頼もうか」
「任せてよ!」

食べてる間、左右田クンはいろいろな話をしてくれた。

機械類を分解して戻す事が楽しい事
でも 何故か元通りに戻らない事
最近では目覚まし時計がバイクにトランスフォームした事
戦車が撫で回してみたい程好きな事
軍事機密に憧れる事

私は相づちを打つしか出来なかったけど左右田クンの話は面白かった。

「やっぱ速けりゃ速い程いいぜ。バッティングマシーンもクレーン車もバイクも」
「いつかはロケットも作るの?」
「......」
「左右田クン?」
「馬鹿にしねーんだな」
「左右田クンなら作れそうなんだもん」
「次、は...ロケット作ってみようかと思ってる」

頬をかきながら照れたようにぽつりと教えてくれた目標に笑顔で返す。

「素敵だね!」
「サ、サンキュ...なあ ちょっとこっち来てくんね?」

あぐらをかいた足の上を指されて「え?」と瞠目する。

「なんか無性にお前を抱きしめたい」

カアーっと頬に熱が集まる。

「左右田クン、女の子慣れしてる?」
「んな訳あるかっ!嬉しかったんだよ!」
「...わかった。いいよ」

もぞもぞと膝の上にお邪魔する。

「固まんなよ。こっちまで恥ずかしくなんだろ」
「う、うん」

胸にもたれて背中を預けるとポスっと頭の上に左右田クンのアゴが乗った。

「あー、やっぱ思った通りだぜ。このフィット感。オレの為に設計された骨格みてーだ」

ふわあああ と声を上げる口に唐揚げを押し込む。

「んぐっ」
「骨格フェチ!」
「わりーかよ!あ、唐揚げうまい」
「左右田クン うまい しか言ってくれないからつまらない。」
「『まずい』よりゃましだろ」
「感想言ってくれないと好みがわからないよ」
「好み通り作ってくれんのか!?」
「え?食べてもらうならおいしいの作りたいでしょ?」

ぎゅっと強く抱きしめられて少し苦しい。意外と腕たくましいんだなぁ。

「そっか、サンキュー...じゃあさっきの唐揚げ味は完璧だけど、も少しカリカリだといい」

腕の筋肉のスジを眺めていると嬉しそうな声で注文が入り、私は「OK!」と首を縦に振った。




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