「ひ…なた…く…ん?」
「ヒナタハジメ。僕の前の人格なんですね?先生方から聞きました」
「日向クン!?日向クンなの!?日向クンだぁ……会いたかったの、ずっとずっとずぅっと!!」
「いいえ、ヒナタハジメの人格はもう欠片もありません。戻ることもないでしょう」

2度と会えないと感じたのは間違いじゃなかった。足に力が入らず崩れ落ちる。

「貴女が2度と会えないことで泣くのならヒナタハジメに嫉妬するくらい僕はトモエを愛しています。どうかわかってください」

ふわりとした浮遊感と共に抱きかかえられた。イズルクンの首に腕を回して懇願する。

「凪斗を置いては行けない!」
「彼も超高校級の絶望です」
「は?」
「しかも他の絶望と違って自ら望んで堕ちているからタチが悪い」
「そ、左右田クンも…私に優しく接してくれたから一緒に逃がして」
「メカニックの彼も絶望ですよ」
「小泉さん、ソニアさん、澪田さん、辺古山さん
終里さん、西園寺さん、つ「トモエ」」

カツリカツリと迷いなく歩みながら残酷な事実が突き付けられる。

「貴女のクラスで絶望していないのは貴女だけです」
「う、嘘だよ。みんなが絶望だなんて、有り得ない」
「江ノ島盾子ならそれが可能なのです。何があってもアイツとは関わらないように。“危険”なんて言葉では言い表せませんから」

金網を強引に外すと、イズルクンはその穴から私を抱えたまま飛び降りた。薄らと夜が明けていて、薄暗い通気孔を進んで来た私には眩しく感じられる。近くの林に身を潜め、イズルクンは私に着いた埃を払ってくれた。小さな爆発音が途切れ途切れに響く。周囲を見回して柵の向こう側に広がる予備学科の運動場に、日向クンとキスした場所だと気づく。

「学園の近くにタクシー乗り場があるのは知っていますね」
「うん」
「ここから出たら真っ直ぐそこへ向かいなさい。スーツの胸ポケットに現金があります。トモエの家までは充分ありますから使ってください。それから両親を説得してどこか安全な所に逃げてください。なるべく都会から離れること。どれほど酷い両親でも大切な肉親なのでしょう?見捨てずに一緒に生き延びてください」
「どうして知ってるの?」
「それは何に対しての問いですか?」
「全部だよ。私の家も両親のことも」

イズルクンは逡巡してから顔をこちらに向けた。

「…………………とにかく、希望ヶ峰学園から離れること。ただの学生運動で終わる気がしないのです。どこが安全と言いきれないことがく惜しいですが絶対生きてください。貴女が死んだら再会が不可能になってしまう。」
「い、いや!私は行かない!ここで離れたらもうイズルクンに会えない!」
「貴女が言ったんでしょう?思い続ければ信じていれば再び会えると。貴女が信じてくれなければ僕は何を頼りに絶望へ立ち向かえば良いのですか?」
「…っ」
「愛しい人。僕は貴女の為に戦うと誓いましょう。例え絶望に利用されたとしても必ず反旗を伺い続けます。全ては貴女の幸せの為に」
「イズルクン」
「貴女についていけないお詫びにお願いを聞いてあげます。最後の願いは?」
「笑って。笑ってイズルクン」
「ええ、それでいいのなら、愛しい人」

笑うと幼く見えるのは日向クンと一緒だ。

「トモエ?どうして泣いてるのですか?」
「亜神田木?どうして泣いてんだ?」


「トモエの涙を見るのは辛いんです」
「亜神田木の涙を見るのは辛いんだよ」


「僕の力で必ず貴女を幸せにしますから」
「俺の方が絶対お前を幸せにしてやるから」


「待っていてください」
「俺にしろよ」





「ひたなくん」


自然と引き寄せられてイズルクンとキスをする。

1回目の場所と柵を挟んで3度目のキスを。






「愛しい人。それでは永遠にさようなら」

長い黒髪を翻し、イズルクンは降りてきた通気孔へ飛び上がった。

「えいえんに?永遠ってどう言う事!?ねぇ!イズルクン!!」

真っ黒い穴に向かって叫んでも、先程まで温もりをくれた人の返事はなかった。








瓦礫の中地面に転がっているドーナツを拾い上げ、そのまま口に含めばジャリジャリと砂が不快な音をたてました。吐き気を堪えて飲み込むとふわりと広がった甘さに、
「おいしいですよ」
と呟いた僕の言葉に喜んでくれる彼女はもう、いません。

瞳から一筋零れた生温い液体を血濡れたシャツの袖で拭います。それから前方を睨み、奈落への道を迷いなく歩き始めました。





僕はカムクライズル。超高校級の絶望です。



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