「こっち来んのは久しぶりじゃね?」
「まーね。だって左右田先輩がー亜神田木先輩にー構ってばっかりなんだも〜ん」
「おい、ここに来た目的はなんだよ?こいつか!?」
「宇宙旅行の出来る乗り物は完成しそうなの?」
「答えろ!」

強く肩を揺すれば形のいい唇を釣り上げニヤニヤと馬鹿にするように笑った。

「やだー強引。そんなにあたしと亜神田木先輩との関係が気になるの?安心してよ。百合展開に興味ないし」
「そーじゃねーよ!」

初めて江ノ島に対して上げる荒い声に冷や汗がどっと吹き出した。思えばこいつに反抗的な態度を取ったのはこれが初めてだ。

「何を恐れてんの?」
「は?」
「愛しい愛しい巴にはいつまでも純真無垢なままでいて欲しい?素直に笑って素直に泣いて希望に満ち溢れてキラキラしていて欲しい?」
「ぐっっ…」
「あー絶望的な言葉言っちゃって気分悪い!心配しないでよ。まだ亜神田木先輩には手を出していないから」

その言葉にほっと息をつく。

「左右田先輩みたいに」
「……うるせぇよ」
「あははっそこで否定しない先輩が好きよ!」
「冗談はいらねぇ」
「ホントだって、絶望的に素晴らしい才能を絶望的に絶望してるあたしのために使ってくれる先輩を絶望的に愛してる」
「…そーかよ」

頭を掻き毟ると「先輩髪の毛汚れちゃってる」と言いながらハンカチを取り出し、拭いてきた。手を見ると機械油に塗れている。そうだった。オレはロケットを作ってるんだった。

「バッティングマシーンもバイクもプレス機もベルトコンベアーも絶望的に準備万端!想像してよ。先輩の作った作品に絶望しながら乗る奴らの顔を!!」
「……最っ高に絶望的だぜ」
「ぎゃはははは!いーねその顔。もっともっともっと一緒に底まで落ちようよ先輩?」
「狂ってる」
「そう!狂ってるの!だけどねその考えは少し違う!ピアノの白鍵から見て黒鍵は半音ズレてるけれど黒鍵からすれば白鍵の方が半音ズレてるの!」
「オレにゃ音楽はわかんねーよ」
「でもね!この世界を素晴らしい絶望に染めあげれば誰もおかしいなんて思わない!そのためにさぁ…」

テンションが上がりまくって涎を撒き散らしていた江ノ島は急に真顔になって囁いた。

「亜神田木先輩とも一緒に落ちようよ」
「駄目だ!亜神田木はそんな事していいやつじゃねぇ!」
「えーどうしてー?一緒に浸ろうよー。それとも何?そのクソビッチを純な女神だと手を出さずに崇めていたいの?左右田先輩は超高校級の絶望のくせに」
「は?」
「今のリアクションはどっちに対する『は?』かなー?」
「く…クソビッチ…ってなんだよ?…マジで怒んぞ?」

怒りで声が震えるなんざ久しぶりだ。

「やだーレンチ握って睨まないでよ〜。…先輩が超高校級の絶望だってことは認めるんだね」
「…………」
「はいはい。あたしが何言っても信じてもらえないだろうから、てれれてってれ〜『証拠写真〜』!!」

鼻に掛けた間延びした声を出しながら差し出された2枚の写真を受け取る。1つはどこかの野外で頭のアンテナが特徴的な男の肩に足を掛け、よがっている亜神田木の姿。もう一つは音楽室でまた別の男の頬に手を添えキスをしている亜神田木の姿だった。

「は?何だよこれ。合成か?」
「正真正銘そこでグースカおねんねしてるクソビッチちゃんだよー。そっちの外のは予備学科とやってる時ので、音楽室のは夜時間に抜け出して愛引きしてたんだって。やらしーね!最近寝る時間が遅いのは、男と愛引きしてるからでしょ!あれあれあれ?でもぉ、亜神田木先輩ってぇ幸運先輩の事がぁ好きなはずじゃなかったっけ?どっちの男も違うよねぇ?」

くねくねと身をよじる江ノ島に嘘だとわめき散らしたい。こいつがそんな器用な事出来るはずがない。真っ直ぐに狛枝を想う姿をオレは好きになったんだ。

「あまりにも振り向いてもらえないから他の男に手を出してんのかな?気をつけなよー。左右田先輩も食べられちゃうかもね!」
「ま、待てよ。予備学科の方は知らねーとして、音楽室は本科の敷地だろ?オレこいつの事知らねーぞ」
「あぁ、カムクライズルってそいつよ」
「本当にいたのかよ!?カムクライズル」
「そーよ。七不思議じゃないんだって。最近はそいつがお気に入りみたいで毎晩会ってるみたい。女のあたしが言うのもなんだけど、やっぱ女って怖い。いや、人の信頼や優しさを利用する人間が怖いわー。今も作ってくれてるお弁当だって、先輩に飽きたらすぐやめちゃって離れていくんだよ」
「…………」
「それはもうすぐかもね?今はカムクラに夢中みたいだし。すごいよねー、どんな才能も思いのまま操れるなんてさ。希望ヶ峰学園の真の希望らしいけど、あたしにかかれば「なぁ江ノ島」ん?何?」
「そいつ、絶望に落としてくれ」
「あたしにかかればお安い御用ってね!見といてよ。盾子ちゃんが超高校級の希望を利用する姿をね」

下品に笑う江ノ島を濁った目で見つめる。ドロドロと底無し沼に引きずり込まれる感覚。

「超絶望的…」

呟いたオレに江ノ島はにこりと微笑んで背後から抱き締めて来た。亜神田木にもまとめて巻き付く指を飾る赤い爪。

「あたしは絶望側にいてくれる左右田先輩を愛してる」

ああもうどうでもいい。オレを突き落としてくれ。








◇◆





「御機嫌だね盾子ちゃん」
「着いて来てたのむくろちゃん」
「1人で乗り込むのは危ないと思って」
「要らない心配すんなよ。本当に残念な子」
「ご、ごめんなさい盾子ちゃん」
「特別に許してあげる。今回は珍しく役に立ったからさ」
「写真のこと?男の人の顔が写ってないから役に立たないんじゃなかったの?」
「あたしが役に立ったって言ってるでしょ?」
「そ、そうだね。良かったよ」
「つーかあたしをストーカーしてる暇があったんならロボトミー人間について調べて来いよ」
「でも、盾子ちゃんに何かあったら」
「希望にしがみついてる奴を落とす方法を1万7082通り考えたあたしなら希望に戻りかけてる絶望を引きずり戻すくらい分けないって」
「ごめんなさい」
「ま、残ねぇちゃんが足引っ張っても私の計画に大して差し障りはないし、タイミングとしてはバッチリ!希望へと登りつめた高さが高いほど絶望に落とした衝撃は強いし?あぁ…左右田先輩が羨ましいいい。愛した人に裏切られたと思い込んでるなんてさっ。どれだけ絶望的なの!?あたしは何してる写真とは言ってないのに、あーあ、勝手に下世話な方へ想像しちゃってさー」



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