貴方

昼休み特有の喧騒を耳に、見上げるほど高い柵を乗り越え 希望ヶ峰学園に入る。別に遅刻した訳でも希望ヶ峰学園の生徒じゃない と言う訳でもないけれど。
周囲に人の気配がないか注意しながら 姿勢を低くして歩く。少しずつ遠くなっていく生徒達の声に反比例して大きくなる機械音。校舎の影にあるベンチに座る、風に揺れる白い髪を見つけ 私はそれ目掛けて駆け寄った。

「凪斗〜!!」
「また来たの。予備学科のくせに」

幼馴染みの凪斗はチラと視線を向けるとすぐに手元のパンに戻した。
そう、私は希望ヶ峰学園の本科生じゃない。本科と予備学科は校舎も敷地も違う。予備学科の生徒も在学中才能を開花させれば本科に移動できるらしいが どこまで本当なのかわからないし、凪斗に会うためにはこうやってこちらから乗り込んで行かなければならないのだ。

「全く、予備学科なんかと昼食なんて本当に不運だよ」
「そんなこと言うなら食堂で食べなよ。希望溢れるみんなと食べれるのに」
「ボクなんかがみんなと同じ場所で食事なんておこがましいにも程があるよ」
「はいはい」
「それに、食堂にいても予備学科は来るでしょ。騒がしくしてみんなに迷惑掛けるのも 先生方に注意という時間を割かせるのも悪いからボクが我慢するんだ。」
「さすが凪斗。私の事わかってる。」
「何年幼“知人”やってきたと思ってるの」
「幼“馴染み”でしょ」
「馴染んでない」

鋭く切り返すと食べ終わった袋を折りたたんで立ち上がる。

「ちょっと凪斗、またそれだけしか食べないの!?ダメだよ。ほら 今日もおかずいろいろ作ってきたから食べて」

規定の制服の上に羽織っている深緑のジャケットを掴んで引き止めると 心底嫌そうに振り返った。

「毎回毎回鬱陶しいよ」
「もやしな凪斗も大好きだけどパン一個はダメだって。今日のは絶対まずくないから!」

ため息をついて差し出したお弁当からそのまま摘んで食べると、
「まずい」
の言葉を残して凪斗は帰ってしまった。その背中に声掛け。

「凪斗ー!!大好きー!!」













「なんでそんなヤツの事が好きなんだよ」

ズゴーっと音をたてて紙パックをへこますとストローから口をはなして日向クンは言った。

「....好きになっちゃったんだもん」

俯せると「人の机にもたれんな」と頭を小突かれた。それを無視して続ける。

「昔はすごく優しかったんだよ!?」
「そうなのか?」
「私が泣いてると慰めてくれたし、将来の夢も笑わないで応援してくれたし、このヘアバンドだって凪斗がプレゼントしてくれたんだもん」
「それカチューシャじゃないのか?」
「まぁパッと見そう見えるよね。」

顔だけ上げて日向くんを見上げる。「どういう風に結んでんだ?」確認しようと伸ばされた手を押しのけて 次は左頬を机にくっつけて窓の外を見る。予鈴が鳴ったので外からは休み時間特有の歓声は全く聞こえない。

「亜神田木の夢ってなんなんだ?」

空になった紙パックを私の右頬に立たせようとしながら日向くんは聞いた。顔を動かさないよう注意して視線だけ向ける。

「笑わない?」
「笑わねーよ」
「女優」
「は?」
「今“何バカなこと言ってんだコイツ”って思ったでしょ!」

体を起こし 指を突きつける。

「そんなこと思ってないぞ。急に動くなよ。せっかく立ったのに...」

机に倒れた紙パックを拾うとそのままゴミ箱に投げた。綺麗な弧を描いて入ったのを確認すると膨れた私の頬を潰す。

「ちょっと意外だなと思っただけだ」
「意外?」
「ああ、だってお前は目立ちたいタイプじゃないだろ」

まぁ目立ちたくてなりたい訳じゃないしなー。

「そうだね」
「希望ヶ峰学園に入学したのは女優として成功したいからなのか?」
「ううん。両親が無理矢理。そもそも女優の夢は諦めてるし」
「なんで諦めて「あ!後ね 凪斗が希望ヶ峰学園に入るって聞いたから!!」
「....」
「幼稚園からずっと一緒なんだもん。高校で離れるなんて論外!!....と思ってたけど、予備学科と本科は校舎が違うなんて聞いてない!!」
「....」
「そう言う日向くんは?なんでここに入学したの?」
「才能が欲しいから。自分に自信が持てるようになりたいからだ。」
「なーる。だったら日向くんはもう超高校級の才能があるよ」
「え?」

ずっとはさみっぱなしだった私の頬から手を放し 目を見開く。仕返しに両手で頬を挟んで幼く見える原因の大きな瞳を見つめて言う。

「超高校級の相談窓口」
「嫌だぞそんな胃痛酷そうな才能」

顔をしかめるとアヒル口状態と相まって変な顔になった。吹き出すと更に眉間のシワが深くなったので両手を挙げて弁明する。

「ごめんごめん。でも人見知りな私がここまで話せるのも日向くんの優しさのお陰だもん。立派な才能だと思うよ?」

本鈴が鳴ったのでイスを前に戻す。

「それは違うぞ。優しくしてるのは亜神田木だからだ」
「ん?何か言った?」

振り返ると

「明日もジュースおごれよって言ったんだ」
「OK、相談料ね」
「ほとんど愚痴聞いてるだけだけどな」
「あははっ」
先生が入って来たので私は口を噤んだ。



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